空からデリバリー、空飛ぶタクシーで出勤 中国の航空宇宙情報産業の新たな発展
航空宇宙情報産業は、低空域飛行活動による経済形態「低空経済」、衛星・地上統合開発・応用など、各方面に及んでいる。現在、中国の航空宇宙情報産業にはどのような新たな発展が見られるだろうか。
低空域飛行路線が交通手段の新たな選択肢に
今年に入ってから、中国は低空域飛行の応用シーン構築において数多くの新たな試みを打ち出し、「低空域飛行による観光」や「低空域輸送」などの新業態が絶えず登場し、一般の消費者が気軽に体験できるようになった。
ヘリコプターに搭乗して、空からの観光を楽しみ、低空域を移動する……広東省深セン市では、こうした新たなライフスタイルが市民に影響を与えており、最近は「空飛ぶタクシー」が人々の視界に入ってきた。
東部通航運航コントロール部の責任者の梁進さんは、「当社は『空飛ぶタクシー』事業を最も早く打ち出した事業者のうちの一つ。ビジネスがますます好調になるのにともなって、深センではヘリコプター20機以上が運航し、運航便数は1日平均20数便に上るようになった。すでに来年1月分まで飛行予定が決まっている」と話した。
取材によると、東部通航の業務内容は交通、文化観光、緊急対応などにわたり、さらに新たな用途開発やグレードアップも行っている。今年、この事業の運航便数は5000便を超え、乗客は1万人を上回り、運航路線は100本以上になったという。
「低空経済」はまだスタート段階
深センだけではない。海南省は最近、全国初の無人航空機運航空域マップを発表し、広東省広州市のゼネラルアビエーション企業は世界で初めて人を乗せる無人航空機シリーズの型式証明を取得した。大まかな統計によれば、今年、全国で16の省・自治区・直轄市の政府活動報告に、「低空経済」やゼネラルアビエーション関連の内容が盛り込まれた。
デリバリーで頼んだ食品が「空から配達」され、観光用「ヘリコプターで遊覧」し、「空飛ぶタクシー」で出勤するといったシーンが今、私たちの日常生活に登場しようとしている。しかし専門家は、「現時点では低空経済はまだスタート段階にあり、どうやって市場を切り開き、コストを引き下げるかといった問題に直面している。低空経済を発展させるには、市場が根本、空域がカギ、政策が保障、安全がベースラインになる。低空経済がスタート段階から飛躍段階へ発展するよう促進するには、整った法規・ルール体系を加速度的に構築し、イノベーション駆動型の発展を堅持し、より多くの応用シーンを絶えず開発・開放することが必要だ」との見方を示す。
航空宇宙情報産業チェーンが応用の実現を加速
現在の未来産業を将来の戦略的新興産業へ成長させ、さらには将来の基幹産業に成長させるには、先頭に立って配置を進めようとする決意と努力が欠かせない。産業チェーンの改善を続けなければ、産業化コストが絶えず低下することはあり得ず、応用の実現ペースが絶えず加速することもあり得ない。
安徽省合肥市ではここ数年間に、全国初の深宇宙探査実験室、国際先進技術応用推進センターなど、一連の国家級施設が相次いで設置された。同市は航空宇宙情報産業を「未来科学城」宇宙計画に盛り込み、同産業チェーンに関連した企業・プラットフォームを誘致すると同時に、科学技術成果の事業化を強化し、スマートセンシングや衛星モニタリングなど実際の応用の実現が加速するよう後押ししている。
取材によると、合肥では将来、航空宇宙情報に関わる能力がより多くのシーンに落とし込まれ、各産業・業界における応用や具体的シーンと結びつくようになり、また環境保護、水利、都市管理、緊急時エネルギー対応、教育などより多くのシーンで応用されるようになるという。(編集KS)
「人民網日本語版」2023年12月25日
航空宇宙情報産業は、低空域飛行活動による経済形態「低空経済」、衛星・地上統合開発・応用など、各方面に及んでいる。現在、中国の航空宇宙情報産業にはどのような新たな発展が見られるだろうか。
低空域飛行路線が交通手段の新たな選択肢に
今年に入ってから、中国は低空域飛行の応用シーン構築において数多くの新たな試みを打ち出し、「低空域飛行による観光」や「低空域輸送」などの新業態が絶えず登場し、一般の消費者が気軽に体験できるようになった。
ヘリコプターに搭乗して、空からの観光を楽しみ、低空域を移動する……広東省深セン市では、こうした新たなライフスタイルが市民に影響を与えており、最近は「空飛ぶタクシー」が人々の視界に入ってきた。
東部通航運航コントロール部の責任者の梁進さんは、「当社は『空飛ぶタクシー』事業を最も早く打ち出した事業者のうちの一つ。ビジネスがますます好調になるのにともなって、深センではヘリコプター20機以上が運航し、運航便数は1日平均20数便に上るようになった。すでに来年1月分まで飛行予定が決まっている」と話した。
取材によると、東部通航の業務内容は交通、文化観光、緊急対応などにわたり、さらに新たな用途開発やグレードアップも行っている。今年、この事業の運航便数は5000便を超え、乗客は1万人を上回り、運航路線は100本以上になったという。
「低空経済」はまだスタート段階
深センだけではない。海南省は最近、全国初の無人航空機運航空域マップを発表し、広東省広州市のゼネラルアビエーション企業は世界で初めて人を乗せる無人航空機シリーズの型式証明を取得した。大まかな統計によれば、今年、全国で16の省・自治区・直轄市の政府活動報告に、「低空経済」やゼネラルアビエーション関連の内容が盛り込まれた。
デリバリーで頼んだ食品が「空から配達」され、観光用「ヘリコプターで遊覧」し、「空飛ぶタクシー」で出勤するといったシーンが今、私たちの日常生活に登場しようとしている。しかし専門家は、「現時点では低空経済はまだスタート段階にあり、どうやって市場を切り開き、コストを引き下げるかといった問題に直面している。低空経済を発展させるには、市場が根本、空域がカギ、政策が保障、安全がベースラインになる。低空経済がスタート段階から飛躍段階へ発展するよう促進するには、整った法規・ルール体系を加速度的に構築し、イノベーション駆動型の発展を堅持し、より多くの応用シーンを絶えず開発・開放することが必要だ」との見方を示す。
航空宇宙情報産業チェーンが応用の実現を加速
現在の未来産業を将来の戦略的新興産業へ成長させ、さらには将来の基幹産業に成長させるには、先頭に立って配置を進めようとする決意と努力が欠かせない。産業チェーンの改善を続けなければ、産業化コストが絶えず低下することはあり得ず、応用の実現ペースが絶えず加速することもあり得ない。
安徽省合肥市ではここ数年間に、全国初の深宇宙探査実験室、国際先進技術応用推進センターなど、一連の国家級施設が相次いで設置された。同市は航空宇宙情報産業を「未来科学城」宇宙計画に盛り込み、同産業チェーンに関連した企業・プラットフォームを誘致すると同時に、科学技術成果の事業化を強化し、スマートセンシングや衛星モニタリングなど実際の応用の実現が加速するよう後押ししている。
取材によると、合肥では将来、航空宇宙情報に関わる能力がより多くのシーンに落とし込まれ、各産業・業界における応用や具体的シーンと結びつくようになり、また環境保護、水利、都市管理、緊急時エネルギー対応、教育などより多くのシーンで応用されるようになるという。(編集KS)
「人民網日本語版」2023年12月25日
中国各地で「夜間スクールブーム」 そのワケは?
中国で最近、「夜間スクール」が再び人気を集めている。ダンスや声楽、無形文化遺産のハンドメイド、メイクアップ、フィットネス、書道、フラワーアレンジメントなど、若者の趣味や価値観などにマッチしたバラエティーに富んだ内容となっており、多くの若者がそれらに心の拠り所を見出している。
複数のプラットフォームのデータによると、今年、「夜間スクール」の検索回数が前年同期比で980%増、関連する書き込みとレビューの数は同比226%増に達した。オフラインでは、定員1万人の教室に、65万人が殺到するという事態も生じており、ネットユーザーからは、「祝祭日の列車チケット争奪戦より激しい」という声も上がっているほどだ。
「夜間スクールブーム」はまず、上海市から始まった。上海市群衆芸術館が開設した「上海市民芸術夜間スクール(秋季)」の27クラスは、受講者募集開始からわずか3分ほどで全て定員に達してしまった。
「夜間スクール」の目的について、多くの受講者は「ストレス解消」を挙げる。「ストレス解消」や「趣味を増やす」以外に、「手頃な料金」も、多くの人が「夜間スクール」に通う理由だ。例えば、わずか500元(1元は約19.9円)で、約2ヶ月かけて12回のレッスンを受講でき、その内容もバラエティに富んでいて、誰でも何かしら興味を抱ける教室を見つけることができるようになっている。また講師のレベルが高いことも、多くの人が「夜間スクール」に精を出す理由となっている。
上海市群衆芸術館の徐皓副館長は、「当館には、国有文芸院(団)」だけでなく、協会の講師や民間芸術機関、さらに、無形文化遺産の伝承人、国家級、市級の無形文化遺産伝承人などが揃っている」と説明する。
受講者だけでなく、講師も多くの収獲を得ているようだ。講師は受講者に高く評価されるだけでなく、自分の好きなことを人に教えることで、自分にとってもたくさんの学びを得ている。例えば、相声(日本の漫才に相当)教室の周講師は、「私もたくさんのことを学ばせてもらっている。受講者は相声に、自分の生活で経験していることなどを織り交ぜており、はっとさせられることがよくある」と語る。
杭州文化館は、若者を対象にしたコーヒー教室やウクレレ教室、演技レッスンなどを開設し、平日の夜や週末のクラスを増やしている。
山東省淄博市の各区・県は、女性を対象とした「夜間スクール」を開設している。ハイクオリティライフ系や親子関係系、生活・ヘルスケア系など、7ジャンルの教室があり、レッスン回数はこれまでに延べ1000回以上、5万人以上が受講してきた。
河南省洛陽市洛龍区は、切り絵、パン・ケーキ、フラワーアレンジメント、茶道、スマホ写真撮影などが学べる教室を開設しており、市民が充実したナイトライフを送っている。
中国社会科学院財経研究院の夏傑長副院長は、「夜間スクールブームは、若者の間で文化的生活を送りたいというニーズが高まっていることのほか、その充実した心や夢を追いかける気持ち、自分を高めたいという生活理念を反映している。また、夜間スクールが各地で人気となっていることは、公共文化サービスが根付いていることを反映しているほか、各地が積極的に模索し、変化を求める決意をしていることも反映している」との見方を示した。(編集KN)
「人民網日本語版」2023年12月26日
中国で最近、「夜間スクール」が再び人気を集めている。ダンスや声楽、無形文化遺産のハンドメイド、メイクアップ、フィットネス、書道、フラワーアレンジメントなど、若者の趣味や価値観などにマッチしたバラエティーに富んだ内容となっており、多くの若者がそれらに心の拠り所を見出している。
複数のプラットフォームのデータによると、今年、「夜間スクール」の検索回数が前年同期比で980%増、関連する書き込みとレビューの数は同比226%増に達した。オフラインでは、定員1万人の教室に、65万人が殺到するという事態も生じており、ネットユーザーからは、「祝祭日の列車チケット争奪戦より激しい」という声も上がっているほどだ。
「夜間スクールブーム」はまず、上海市から始まった。上海市群衆芸術館が開設した「上海市民芸術夜間スクール(秋季)」の27クラスは、受講者募集開始からわずか3分ほどで全て定員に達してしまった。
「夜間スクール」の目的について、多くの受講者は「ストレス解消」を挙げる。「ストレス解消」や「趣味を増やす」以外に、「手頃な料金」も、多くの人が「夜間スクール」に通う理由だ。例えば、わずか500元(1元は約19.9円)で、約2ヶ月かけて12回のレッスンを受講でき、その内容もバラエティに富んでいて、誰でも何かしら興味を抱ける教室を見つけることができるようになっている。また講師のレベルが高いことも、多くの人が「夜間スクール」に精を出す理由となっている。
上海市群衆芸術館の徐皓副館長は、「当館には、国有文芸院(団)」だけでなく、協会の講師や民間芸術機関、さらに、無形文化遺産の伝承人、国家級、市級の無形文化遺産伝承人などが揃っている」と説明する。
受講者だけでなく、講師も多くの収獲を得ているようだ。講師は受講者に高く評価されるだけでなく、自分の好きなことを人に教えることで、自分にとってもたくさんの学びを得ている。例えば、相声(日本の漫才に相当)教室の周講師は、「私もたくさんのことを学ばせてもらっている。受講者は相声に、自分の生活で経験していることなどを織り交ぜており、はっとさせられることがよくある」と語る。
杭州文化館は、若者を対象にしたコーヒー教室やウクレレ教室、演技レッスンなどを開設し、平日の夜や週末のクラスを増やしている。
山東省淄博市の各区・県は、女性を対象とした「夜間スクール」を開設している。ハイクオリティライフ系や親子関係系、生活・ヘルスケア系など、7ジャンルの教室があり、レッスン回数はこれまでに延べ1000回以上、5万人以上が受講してきた。
河南省洛陽市洛龍区は、切り絵、パン・ケーキ、フラワーアレンジメント、茶道、スマホ写真撮影などが学べる教室を開設しており、市民が充実したナイトライフを送っている。
中国社会科学院財経研究院の夏傑長副院長は、「夜間スクールブームは、若者の間で文化的生活を送りたいというニーズが高まっていることのほか、その充実した心や夢を追いかける気持ち、自分を高めたいという生活理念を反映している。また、夜間スクールが各地で人気となっていることは、公共文化サービスが根付いていることを反映しているほか、各地が積極的に模索し、変化を求める決意をしていることも反映している」との見方を示した。(編集KN)
「人民網日本語版」2023年12月26日
幸福灰猪猪ラウレア要继续乖乖的,早日康复出院
けがと闘うマイネルラウレア ファンの人たちからの熱いエールを胸に
競馬の世界は常に死と隣り合わせだ。大きな馬体が膝から崩れ落ちる瞬間。突然の発作で、立っていることすらままならず、倒れ込んでしまう姿。まだ1年目の新人記者の私だが、今年のダービーでレース後、スキルヴィングが、必死に4本の脚で歩いている姿が今でも脳裏に焼き付いている。
栗東トレセンで取材をさせていただくようになり、普段から本当にいとおしそうに馬を見つめ、「この子ほんまに甘えん坊でかわいいねん」、と優しくほほ笑む厩舎スタッフの方々の姿を知っているからこそ、別れが訪れた時のことを思うと胸をギュッとつかまれるような思いになる。四六時中、真正面から一頭一頭と向き合っている方の気持ちを完全に理解しているなんて、口が裂けても言うことはできないが、きらびやかな世界の裏にある、たくさんの人の思いを一人でも多くの人に伝えたい。
10日に阪神競馬場で行われたオリオンS。1番人気に支持されたのは、菊花賞で7着に善戦したマイネルラウレアだった。父ゴールドシップ譲りの芦毛の馬体や、若駒Sで見せた豪快な末脚に、多くのファンの人が魅了され、菊花賞以来の実戦となった彼の走りを楽しみにしていた。
新馬勝ちをともに飾った横山武史騎手を背に、後方からじっくり脚をためるいつものラウレアの競馬。画面越しにレースを見ていた私は、ちょうど映像が切り替わるタイミングでラウレアを見失ってしまい、4コーナーに到達しても姿を現さない彼に、心の中がざわついた。
「何が何だかよく分からなかった」と、口にするのは担当する宮厩舎の荻須恭一郎助手。「ゲート裏からバスに乗って、検量室まで向かっていたから、レースを直接見ることができなくて、音だけ聞いていた。でも、検量室までに地下道を通るから、そこで1度音が途切れる。地下から出て、パッと3コーナーあたりを見ると、武史と痛そうにしているラウレアが立っていて、意味が分からなかった。本当に頭が真っ白だったね」。
普段、笑顔しか見たことがないと言っても過言じゃないくらい、常に明るく、ユーモアにあふれている荻須助手。それゆえ、いつもよりも1つ低い声のトーンで話す口ぶりから、その時の衝撃の大きさが感じ取れた。
血を流しながらも、ラウレアは自分の力で馬運車に乗り込み、すぐさまレントゲンで容体を確認した。その瞬間獣医師の方から出た、「うわ……」という声を聞き、また不安が襲い掛かってきた。
下された診断結果は左第3中手骨の骨折。応急処置をして、栗東トレセンへ輸送された。10日の18時30分ごろから、11日の0時30分までの約6時間に及ぶ手術が行われた。X(旧ツイッター)には、ラウレアの無事を願うファンの方々の、#マイネルラウレア#手術成功、という文字であふれかえっていた。たくさんの人の思いが届いたのか、手術は無事成功。管骨の亀裂が入っている側面にプレートを入れ、10本のボルトで留めて患部を固定する大掛かりなものだった。
手術後に荻須助手が再会したラウレアは、痛々しく大きなギプスを巻いていて、脚をつくことができない状態だった。無事に手術が成功したとはいえ、油断のできない2週間が続く。
「本当に強い馬だよ。1週間くらいするとだいぶ元気になってきた。だけど、腸炎や脚に入れているプレートやボルトからの細菌感染のリスクがあった。僕、ストレスがたまると首や顎のリンパが痛くなるんよね。手術から、入院して1週間くらいはずっとそこがこれまで感じたことがないくらい、最大級に痛かった」。
いつ何が起きてもおかしくない不安の続く日々。荻須助手を支えたのは、ファンの方から届いた、ラウレアの無事を願うお守り。そして、一通一通愛情のこもった手紙だった。
「全国各地からたくさん……びっくりしたよ。すごく辛かったけど、ファンのみなさんが応援してくれて、すごい励まされた。本当にありがとうございます」。
荻須助手からラウレアのすぐそばに、丁寧に並べられたたくさんのお守りや手紙の写真。そして、しっかりと自分の脚で立つラウレアの写真が届いた。話すことのできないラウレアの気持ちを知ることはできないが、ファンの方々の強い愛は、ラウレアと誰よりも長く時間を過ごす荻須助手へ。そして、ラウレアを優しくなでる温かい手の温度から、きっと届いているだろう。
有馬記念当日の24日。無事に区切りの2週間を乗り越え、感染症のリスクはかなり軽減した。今後は1カ月の入院生活を経て、経過が順調なら放牧に出る予定だ。
「頑張ってくれているのは馬。なんとか精いっぱいサポートして、やれるだけのことはしたい」。荻須助手の言葉に力がこもる。記者としてまだまだ新人の私が、分かったようなことは言えないけれど、競馬が大好きな一ファンとして、「命懸けで走ってくれてありがとう」。レースに向かう全ての競走馬に敬意を持って、この言葉を伝えたい。(デイリースポーツ・小田穂乃実)
けがと闘うマイネルラウレア ファンの人たちからの熱いエールを胸に
競馬の世界は常に死と隣り合わせだ。大きな馬体が膝から崩れ落ちる瞬間。突然の発作で、立っていることすらままならず、倒れ込んでしまう姿。まだ1年目の新人記者の私だが、今年のダービーでレース後、スキルヴィングが、必死に4本の脚で歩いている姿が今でも脳裏に焼き付いている。
栗東トレセンで取材をさせていただくようになり、普段から本当にいとおしそうに馬を見つめ、「この子ほんまに甘えん坊でかわいいねん」、と優しくほほ笑む厩舎スタッフの方々の姿を知っているからこそ、別れが訪れた時のことを思うと胸をギュッとつかまれるような思いになる。四六時中、真正面から一頭一頭と向き合っている方の気持ちを完全に理解しているなんて、口が裂けても言うことはできないが、きらびやかな世界の裏にある、たくさんの人の思いを一人でも多くの人に伝えたい。
10日に阪神競馬場で行われたオリオンS。1番人気に支持されたのは、菊花賞で7着に善戦したマイネルラウレアだった。父ゴールドシップ譲りの芦毛の馬体や、若駒Sで見せた豪快な末脚に、多くのファンの人が魅了され、菊花賞以来の実戦となった彼の走りを楽しみにしていた。
新馬勝ちをともに飾った横山武史騎手を背に、後方からじっくり脚をためるいつものラウレアの競馬。画面越しにレースを見ていた私は、ちょうど映像が切り替わるタイミングでラウレアを見失ってしまい、4コーナーに到達しても姿を現さない彼に、心の中がざわついた。
「何が何だかよく分からなかった」と、口にするのは担当する宮厩舎の荻須恭一郎助手。「ゲート裏からバスに乗って、検量室まで向かっていたから、レースを直接見ることができなくて、音だけ聞いていた。でも、検量室までに地下道を通るから、そこで1度音が途切れる。地下から出て、パッと3コーナーあたりを見ると、武史と痛そうにしているラウレアが立っていて、意味が分からなかった。本当に頭が真っ白だったね」。
普段、笑顔しか見たことがないと言っても過言じゃないくらい、常に明るく、ユーモアにあふれている荻須助手。それゆえ、いつもよりも1つ低い声のトーンで話す口ぶりから、その時の衝撃の大きさが感じ取れた。
血を流しながらも、ラウレアは自分の力で馬運車に乗り込み、すぐさまレントゲンで容体を確認した。その瞬間獣医師の方から出た、「うわ……」という声を聞き、また不安が襲い掛かってきた。
下された診断結果は左第3中手骨の骨折。応急処置をして、栗東トレセンへ輸送された。10日の18時30分ごろから、11日の0時30分までの約6時間に及ぶ手術が行われた。X(旧ツイッター)には、ラウレアの無事を願うファンの方々の、#マイネルラウレア#手術成功、という文字であふれかえっていた。たくさんの人の思いが届いたのか、手術は無事成功。管骨の亀裂が入っている側面にプレートを入れ、10本のボルトで留めて患部を固定する大掛かりなものだった。
手術後に荻須助手が再会したラウレアは、痛々しく大きなギプスを巻いていて、脚をつくことができない状態だった。無事に手術が成功したとはいえ、油断のできない2週間が続く。
「本当に強い馬だよ。1週間くらいするとだいぶ元気になってきた。だけど、腸炎や脚に入れているプレートやボルトからの細菌感染のリスクがあった。僕、ストレスがたまると首や顎のリンパが痛くなるんよね。手術から、入院して1週間くらいはずっとそこがこれまで感じたことがないくらい、最大級に痛かった」。
いつ何が起きてもおかしくない不安の続く日々。荻須助手を支えたのは、ファンの方から届いた、ラウレアの無事を願うお守り。そして、一通一通愛情のこもった手紙だった。
「全国各地からたくさん……びっくりしたよ。すごく辛かったけど、ファンのみなさんが応援してくれて、すごい励まされた。本当にありがとうございます」。
荻須助手からラウレアのすぐそばに、丁寧に並べられたたくさんのお守りや手紙の写真。そして、しっかりと自分の脚で立つラウレアの写真が届いた。話すことのできないラウレアの気持ちを知ることはできないが、ファンの方々の強い愛は、ラウレアと誰よりも長く時間を過ごす荻須助手へ。そして、ラウレアを優しくなでる温かい手の温度から、きっと届いているだろう。
有馬記念当日の24日。無事に区切りの2週間を乗り越え、感染症のリスクはかなり軽減した。今後は1カ月の入院生活を経て、経過が順調なら放牧に出る予定だ。
「頑張ってくれているのは馬。なんとか精いっぱいサポートして、やれるだけのことはしたい」。荻須助手の言葉に力がこもる。記者としてまだまだ新人の私が、分かったようなことは言えないけれど、競馬が大好きな一ファンとして、「命懸けで走ってくれてありがとう」。レースに向かう全ての競走馬に敬意を持って、この言葉を伝えたい。(デイリースポーツ・小田穂乃実)
✋热门推荐