《感恩祖先能量祈祷文》

感恩至诚至爱的祖先

是祖先的传承令我拥有了此生的生命

感恩祖先一切能量的给予和传递

我知道自己和祖先有着深厚的连接

我的一切都不是单一存在的

我的一切拥有都包含着祖先的馈赠

我感谢祖先的辛勤劳作和爱的能量

我知道祖先无论在哪里

都拥有最好的归宿

我知道祖先的本质清净无碍

本自具足

我从此刻起接受来自祖先的一切爱的

馈赠

并决定从此刻起活出生命的独一无二

我的祖先知道

过去遭受的种种痛苦不堪

都是幻象

只有光明和爱

才是生命的本来面目

我的祖先放下所有贪痴嗔的执念

获得自在 清净 解脱

并且把最丰盛的能量

传递给子孙后代

我祖先的心中

延绵不绝 流淌着无尽的爱

并且传递给子孙后代

感谢!感谢!感谢!

愿我的祖先离苦得乐 圆满无碍

愿我的祖先心怀慈爱  安详自在

愿我有我祖先的能量加持

我身上的每个细胞都有祖先的印记

我感谢祖先的陪伴和爱

我感谢祖先能量的传递

从今日起

我释放掉所有来自祖先的恐惧

我释放掉所有来自祖先的不安

我释放掉所有来自祖先的担心

我释放掉所有来自祖先的痛苦

我释放掉所有来自祖先的纠葛

我释放掉所有来自祖先的怨恨

从今日起

我拥有祖先赋予的勇气

我拥有祖先赋予的力量

我拥有祖先赋予的爱

我拥有祖先赋予的慈悲

我拥有祖先赋予的智慧

我拥有祖先赋予的祝福

从今日起

我活出独一无二的生命

并把爱的能量传递给后代

感谢!感谢!感谢!

雨夜草紙
田中貢太郎

「今度は医学士の弟の方だが、彼には五歳いつつになる女の子があって、悪漢のお祖父じいさんが、非常に可愛がっていたから、それからさきへやったのだ、むせむせする晩春はるさきのことだ、その小供が二階の窓の下で遊んでたから、二三本の赤い芥子けしの花を見せてやったさ、小供の心はすぐその花へ来た、小供は手を延のべて執とろうとしたが執れない、そこで、
(春はるや、春や)
 と、小間使こまづかいを呼んだが、返事がないので、じれて来て、窓へ掻かきあがろうとしたが、あがれない、
(春や、春や、春やってば)
 と、今度は怒って呼んだが、それでも小間使はやって来ない、僕はその花を小供の眼から離さないように努力していたものさ、そこで、小供は小さな頭をひねって、その花を執とる法を考えたが、やっと椅子いすのことを思いだして、室へやの中から、よっちょらよっちょらと引張って来て、窓際まどぎわへ据すえ、その上にあがって執ろうとしたが、花が掴つかめないので、窓の敷居の上へ這はいあがって、手を一ぱいに延べたので、そのまま下へ落ちてしまったさ、小供には気の毒だが、悪漢の悲しんでいた容さまが痛快だったね、
 医師はその比ころから神経に故障が出来たのだ、ある夜よ、眼を覚してみると、並びの寝台に寝ているはずの細君さいくんの姿が見えないのだ、細君の行動に疑問を抱くようになっていた奴やっこさんは、そっと室へやを出て、廊下を通って父親の居間になっている日本間の方へ往くと、廊下のとっつきの小座敷こざしきで人の気配がするのだ、奴さん、そっと障子際しょうじぎわへ寄って耳を立てると、むし笑いに笑う女の声がするが、それがどうしても細君だ、奴さん頭がかっとなるとともに、体が顫ふるひだしたが[#「顫ふるひだしたが」はママ]すぐ奴さんに自制力が出来た、
(ただ亢奮こうふんする時でないぞ)
と、奴さんは歯をくいしばったのだ、そして、耳を澄まして見ると、女の声は無くなって、父親が何か小さい声で話している声が聞える、
(しかし、あの笑い声は、たしかに彼だ)
 奴さんは近比ちかごろ細君の行動の怪しいことから、傍の寝台にいなかったこと、むし笑いに笑った女の声が、たしかに細君の声であったことを思いだして、世界が暗くなったのだ、しかし、
(待てよ、このことは、己じぶんの身にとって、青木一家にとって、極めて重大な事件だ、これは、好く前後を考えたうえの所置にしなければならん)
 と、奴さん稍やや精神がはっきりしたので、己の寝室へ帰って往ったのだ、そして、室の中へはいってみると、細君は己の寝台の上ですやすや睡ねむっているのだ、奴さんは己の神経の狂くるいで奇怪な幻を画えがいたことに気が注つかないから、びっくりして眼を睁みはったのだ、そこで奴さんは、その晩のことは己の邪推であったと思うようになったが、それでも細君に対する疑惑は薄らがなかったさ、それから五六日して、夕方芝口しばぐちを散歩していると、背後うしろから一台の自動車が来たが、ふと見ると、それには深ぶかと青い窓掛まどかけを垂れてあった、それが奴やっこさんを追越そうとしたところで、中からちょっと窓掛を捲まいて、白い顔を出した女があった、それが細君さいくんさ、細君はその日三時から本郷ほんごうの公爵家で催す音楽会へ往っている筈はずである、おかしいぞと思って、内を透すかすと、男の隻頬かたほおが見えた、それは父親の顔であった、奴さんの眼前めさきはまた暗んだのさ、
(怪けしからん、怪しからん)
奴さん自暴自棄やけくそになって、もと往ったことのある烏森からすもりの待合まちあいへ往って、女を対手あいてにして酒を飲んでいたが、それも面白くないので、十二時比ころになって自宅うちへ帰ったさ、
(今日は大変面白うございましたよ)
 と、奴さんを待っていた細君が悦うれしそうな顔をして云うのを、何も云わずに睨にらみつけたさ、細君はその凄すごい眼の光を見て、どうしたことが出来たのかと思って、口をつぐんではらはらとして立ったのだ、僕はその時、細君の横手になった大きな姿見すがたみの中へ顔を出していたが、二人とも見なかったのだ、それから五六日経たった、奴さんとろとろ睡ねむっていて、眼を開けてみると、また細君がいない、しかし何時いつかの夜のことがあっているので、好く眼を据すえて見定めてみたが、たしかにいないと云うことが判った、が、また便所へ往っていないとも限らないと思って、十分ばかり起きあがらずに待っていたが、細君は入って来ない、そこでまた廊下へ出て、廊下を日本間の方へ往ったのだ、往ってみると、怪しい囁ささやきのしていた室へやの前の雨戸が五六寸開あいているから、それを見ると、その開口あきぐちを広くして裸足はだしで庭へおりたさ、遅い月が出て、庭は明るかった、池の傍を廻って、新緑の匂においのぷんぷんする植込みの下の暗い処を歩いて、仮山つきやまの背後うしろになった四阿屋あずまやの方へ往ったのだ、四阿屋の中には、人のひそひそと話す声がしていた、枝葉の間からそっと覗のぞくと、月の陰になって中にいる人は見えないが、あまえるような女の声はたしかに細君さいくんで、他の声はがすがすする父親の声なのだ、
(なんと云う醜体だ)
と、奴やっこさんは顫ふるひだしたが[#「顫ふるひだしたが」はママ]、忽たちまち引返して己じぶんの寝室へ入り、机の抽斗ひきだしにしまってあった短銃ぴすとるを持って、はじめの処へ往き、また、枝葉の間から眼を出して、四阿屋のなかを透すかして見た、四阿屋の中では話声はしなかったが、もそりもそりと物の気配がしていた、
(畜生ちくしょうどもたしかにいるぞ)
 と、奴さんは眼を睁みはったさ、白い手や白い顔がはっきりと暗い中に見えた、奴さんの右の手の短銃ぴすとるの音が大きな音を立てたのだ、
(貴方あなたは何をなさるのです)
 奴さんが短銃ぴすとるを持ち出して往く姿をちらと見て、後あとをつけて来た細君が抱きついたのだ、四阿屋の中には僕の影がおったさ、そこへ悪漢の青木が来る、書生が来るして、発狂してしまった奴さんを執とり押えたのだ、その奴さんは、今至誠病院の一室しつで狂い廻って、悪漢の心をさんざんに掻かき乱しているが、もう長いことはないし、悪漢の寿命も今明年こんみょうねんのものさ、僕は思いどおりに復讐することができたが、こうなってみると仇かたきながらも可哀そうだ」
私にこの話を聞かしてくれた仮名かりなの山田三造君は、最後にこんなことを云った。
「それが夢であったか、起きていた時であったか、どうもはっきりしないが、その朝、隣室で小供といっしょに寝ていた妻さいが、昨夜ゆうべ遅くお客さんがありましたね、長いこと何か話してましたね、それからお客さんのかえりに、貴方あなたがお客さんに挨拶あいさつをして、玄関の戸を締めたことを、うつつに覚えておりますよと云ったが、僕にはその覚えがない」

雨夜草紙
田中貢太郎

 小さくなった雨が庭の無花果いちじくの葉にぼそぼそと云う音をさしていた。静かな光のじっと沈んだ絵のような電燈の下で、油井あぶらい伯爵の遺稿を整理していた山田三造さんぞうは、机の上に積み重ねた新聞雑誌の切抜きりぬきや、原稿紙などに書いたものを、あれ、これ、と眼をとおして、それに朱筆しゅふでを入れていた。当代の名士で恩師であった油井伯爵が死亡すると、政友や同門からの推薦によって、その遺稿を出版することになり、できるなら百日祭までに、伯爵が晩年の持論であった貴族に関する議論だけでも活字にしたいと思って、編纂へんさんに着手してみると、思いのほかに時間がとれて、仕事が進まないのでその当時は徹夜することも珍しくなかった。
 一時間も前から眼を通していた二十頁ページに近い菊判の雑誌の切抜がやっと終った。三造は一服するつもりで、朱筆しゅふでを置き、体を左斜ひだりななめにして火鉢ひばちの傍にある巻煙草の袋を執とり、その中から一本抜いてマッチを点つけた。夜よはよほど更ふけていた。さっき便所へ往った時に十二時と思われる時計の音を聞いたが、それから後のちは時間に対する意識は朦朧もうろうとなっていた。ただ時間と空間に支配せられた、頗すこぶる疲労し切った存在が意識せられるに過ぎなかった。
 雨の音はもう聞えなかった。彼は二本目の煙草を点けたところで、その煙が円まるい竹輪麩ちくわふを切ったように一つずつ渦を巻いて、それが繋つながりながら飛んで往くのに気が注ついた。彼は不思議な珍らしい物を見つけたと云う軽い驚異の眼でそれを見ながら、ゆっくりゆっくり煙を吐いた。煙はやはり竹輪麩のように渦を巻いて、それが連続しながら天井の方へ昇って往った。そして、その靡なびきがぴったり止んで動かなくなったかと思うと、その煙の色がみるみる濃くなり、それが引締るようになると、ものの輪廓りんかくがすうと出来た。肩の円みと顔が見えて、仙台平せんだいひらの袴はかまを穿はいた男が眼の前に立った。三造はその中古ちゅうぶるになった袴の襞ひだの具合に見覚えがあった。
「どうだ、山田」
 と、前に立った人は懐しそうに云って、机の横に胡座あぐらをかくように坐り、
「伯はくの遺稿は、もうだいぶん進んだかね、あれ程有った伯の政友同志は、皆伯を棄すて去った中で、君達数人が、ほんとうに伯のことを思っていてくれたのは、実に感謝の他はない、吾輩も晩年の伯が甚はなはだお気の毒であったから、いつも傍にいてあげた、君達はたびたび伯から、木内きうちの夢を見たよと云われたことがあるだろう、あれが吾輩の傍にいた証拠だ」
 三造は膝ひざを直してかしこまっていた。彼はその場合、何の矛盾も感ぜずに、非常な敬虔けいけんな心を持って先輩に対していた。油井伯爵を首領に戴いただいた野党の中の智嚢ちのうと云われた木内種盛きうちたねもりは、微髭うすひげの生えた口元まで、三十年前ぜんとすこしも変らない精悍せいかんな容貌を持っていた。
「しかし、もう、何も往くべき処へ往った、我が党の足痕あしあとへは、もう新しい世界の隻足かたあしが来ている、吾輩の魂も、これから永遠の安静に入いるべき時が来たから、最後の言げんとして、君にまで懺悔ざんげして置きたいことがあってやって来た」
 三造は頭をさげた。
「君は、吾輩が至誠しせい病院で斃たおれたことを覚えているだろう」
 眼に残っている金盥かなだらいの血、俄然容態が変って危険に陥おちいったと云う通知を得て、あたふたと駈かけつけて往く先輩の一人に跟ついて、至誠病院の病室へ入った三造は、呼吸いきを引きとったばかりの木内の顔に、白いガーゼのかけてあるのを見た。その枕頭まくらもとには死人の吐いた血が金盥の中に冷たく光っていた。
(しまった、しまった、しまった)
 感情家の先輩は、両手をひしと握りしめて、その拳こぶしを胸のあたりで上下に揮ふり動かしながら、床をどしどしと踏んだ。そこには至誠堂病院の院長青木寛かんをはじめ、二三人の医師が粛然しゅくぜんとして立っていた。先輩の眼は院長に往った。
(何故なぜ死んだのです、何故死んだのです、木内君は何故死んだのです)
 先輩の眼は憎悪に燃えていた。
(急に容態が変じました、いろいろと手を尽してみましたが、どうも残念でした)
 院長はすまして云った。その冷ひややかな調子は三造にまで反感をおこさせた。
(残念と云ってしまえばそれまでだが、この男の体をどう思っているのです)
 先輩は怒鳴どなりだした。当時閥族ばつぞく政府へ肉薄して、政府をして窘窮きんきゅうの極に陥おとしいれていた野党の中でも、その中堅とせられている某党の智嚢ちのうの死亡は、野党にとっての一大打撃であった。三造は先輩の憤激するのも無理はないと思った。
(実にお気の毒です)
 院長はまた冷ひややかに云った。先輩の眼は金盥かなだらいに往った。先輩の熱した頭はやや醒さめかけていた。
(胃腸の病やまいに、こんなに血を吐くことがあるのですか)
(無いにもかぎりません)
(しかしどうもおかしいのですね、これまで木内君は、ちょいちょい胃腸が悪いが、何時いつも五六日位、口養生くちようじょうさえすれば、すぐ癒なおったし、今度も別に大したこともないが、下宿では政友が押しかけて来て煩うるさいから、保養のつもりで入院すると云ってた位だから、こんなことはあらわれないはずだ)
(私もはじめには、たいしたことはないと思っておりましたが、急にこんなになりました、どうもお気の毒です)
 そこへ三四人の同志が来たので、その先輩と院長の応対はそれっきりになったが、その後あとでも同志の中では、三造の先輩と同じように木内の死因に疑いを挟んで、院長と交渉した者もあったと云うことを聞いた。また、その野党の総理であった油井伯爵は、関西方面へ旅行中、旅先でそれを聞いて驚いて帰京したが、これまたその死因を疑って、死体を解剖に附ふすると云って口惜くやしがったけれども、結局そのままになってしまった。三造はその当時、その周囲から口ぐちに、
(木内君は毒殺せられた)
 と云うことを聞いた。そして、その院長が次第に社会的に栄達えいたつして、男爵を授さずけられた時にも、
(木内を殺した功こうさ)
 と、云うようなことを云う者があって、忘れていた過去の記憶を呼び起されたこともあった。……
「あれは、君、僕はあの時、青木のためにガラスの粉末を飲まされたのだ、それを青木に頼んだ者は、三田尻みたじりと山口さ、実に卑怯千万ひきょうせんばんな奴だが、謀はかりごとは見事図に当って、野党の歩調が乱れ、予算の大削減にも逢あわず、内閣も倒壊せずに済んださ、その時から青木は、もう男爵になることになっていた」
 三造はまた頭をさげた。
「僕はこの悪漢に対して、すぐ思い知らしてやろうと思ったが、そのままでは復讐の効力が強くないから、時節の来るのを待っていたのだ、が、その時節がとうとうやって来た、君は昨年から本年にかけて、彼奴あいつの家に大きな不幸の来たのを知ってるだろう、それさ、彼奴は思いのままに男爵になり、金にも名誉にも不足が無くなったので、このうえは、二人の男の子を立派な人間にしたいと思いだした、彼奴が時どき己じぶんの室へやで、細君さいくんや親しい朋友ともだちに向って、
(あの二人さえ、一人前の人間になってくれるなら、もう何も遺憾いかんなことはない)
 などと云っているのを見て、僕は、
(今に見ろ、一人前の人間になりかけたところで、復讐してやるぞ)
 と呟つぶやいたことがあったさ、それで、二人とも大学を出たので、彼奴は知人の間を運動して、兄の方の小供を満伊みつい商会へ入れ、弟は医科だから、己の経営している病院の副院長と云う事にしたのだ、
 復讐の舞台が出来たのだよ、
 そこで昨年になって、サンフランシスコの支店長となった兄の子の方から手をくだしたのだ、爺親おやじの血を受けて、意志の強い比較的厳格な奴を、先まずオペラへ引きだして、その座の人気役者で腕の凄い女に関係さして、その手でうんと金を絞らしたら、奴やっこさん苦しくなり、部下となっている遊朋友あそびともだちに勧められて、投機に手を出したところが、みるみる六十万円と云う穴を開けてしまったさ、それで、一方女の方では、年少とししたの情夫があって、奴さんから絞り執とった金を、その情夫と媾曳あいびきの費用にして遊んでいたのを、奴さんうすうす知って、煩悶はんもんしているところへ、投機の一件が本店の方へ知れて、本店から急に呼び返されたのでいよいよ困り、このうえはなんとか身の所置をしなくてはならないと思って、考え考え、ふらふらと彼かの女の許もとへ、足の向くままに往ってみたさ、ホテルの三階になった彼かの女の室へやへは、年少とししたの情夫が来ていて、微暗うすぐらい電燈の下で話していたが、奴さんは入口へ立って扉ドアを叩たたこうとすると、不思議に開あいているので、そのまま静しずかに入って往ったのだ、中の二人は睦むつまじそうに話しているところへ、不意の闖入者ちんにゅうしゃがあったので、びっくりして離れ離れになって起たちあがったが、入って来た者が奴さんだと知ると、平生へいぜいからばかにしきっている女は、
(犬のようにそっと入って来るなんて、貴郎あなたはよっぽど卑怯者ひきょうものですわね)
 と云うと、奴さんしかたなく笑いながら、
(そう云ってくれるな、開あいていたから入ったまでだ、たくらんでそっと入ったものじゃないよ)
 と、穏かに云ったものの、うすうす知っている情夫の青年と睦じそうにしているところを見せつけられたので、頭の中は穏かでなかった、
(だから日本人は嫌いと云うのですよ、嘘つき、今私が締めた扉ドアが、どうして開あいてるのです、なにか私の秘密でも探ろうと思って、合鍵を持って来て、それで開けたのでしょう、出て往ってください、一刻も置くことはなりません)
と、女は情夫との媾曳あいびきの場所を見られた腹立ちまぎれに怒鳴どなりだした、すると奴やっこさんむらむらとして来た。
(よし、お前のような恩知らずの畜生ちくしょうのところには、おれと云ってもおってやらないさ、帰る)
 と云うと、
(帰ってくださいとも、犬のような奴は、一刻も置くことは出来ません、帰ってください、出てください)
 と、女は奴さんに向って進んで来て、突き飛ばしそうにする、奴さんも肱ひじを張って女を迎えようとしたが、思い返して室へやの外へ出た、女は追って来て扉ドアをぴしりと締めたさ、室へやの出口には、蒼白あおじろい瓦斯燈がすとうの光があって、その光の中に僕の顔が浮き出ていたが、奴さんは僕の顔を知らないから、
(変な顔が見えたぞ、頭の具合かな)
 と、眼をつぶって頭を一つ揮ふったさ、しかし、僕はまだ顔を出していたから、奴さんまた僕の顔を見たが、もうその時は、頭の具合かなどと、己じぶんの頭を疑ってみるような反省力は無くなっている、奴さんは恐れて、螺旋形らせんけいの階段を走りおりて街路とおりへでたのだ、そして、奴さんの意識は朦朧もうろうとなってしまったさ、奴さんは人道じんどうも車道しゃどうも区別なしに歩いていると、荷物かもつ自動車がやって来たさ、奴さんは腹部を引かれて大腸が露出したが、それでも二日ばかり生きていたのだ、君は昨年の九月の新聞に、満伊商会の支店長が過あやまって自動車に轢ひかれて、死亡したと云う記事の載っていたのを読んだことがあるだろう、あれさ」
 三造は頷うなずいてみせた。


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