中東情勢緊迫化と原油価格上昇:対ロ制裁の効果を低下させる可能性も
10/10(火) 16:13配信
原油価格上昇の陰にイランとサウジアラビア
イスラム組織ハマスによる7日(土)のイスラエル攻撃は、落ち着きを取り戻し始めた原油価格を押し上げ、世界のインフレ懸念を再び煽ることになった。
WTI原油先物価格は週明け後の9日(月)に、前営業日比4%強高の1バレル=86ドルまで上昇した。イスラエルとパレスチナは主要な産油地域ではなく、今回の事件によって原油供給が直ちに影響を受けることはない。
ただし、ハマスによる7日のイスラエル攻撃をイラン革命防衛隊(IRGC)が支援していた、とウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)は報じている。仮にイラン政府の関与が米政府によって確認されることになれば、バイデン米政権はイラン産原油に対する強硬姿勢を強め、原油供給に制約を与える可能性がある。イランは米国との緊張緩和によって過去1年間に原油生産を日量約50万バレル増やしたが、制裁強化となれば、それは原油価格を押し上げる。
他方、WSJは7日に、サウジアラビアは米国に対し、原油価格が高騰した場合は来年初めに原油の増産に踏み切る用意があると伝えた、と報じている。これは3者合意であり、サウジアラビアがイスラエルを国家として承認するのと引き換えに、サウジアラビアが米国からの防衛上の支援を受ける防衛協定を結ぶ方向で米連邦議会の支持を得ることを狙った動きだという。
サウジ政府は1年前に、原油価格を押し下げインフレ抑制に協力するよう求めるバイデン政権からの要請を拒否したことで、両国の関係は悪化していた。
対ロ制裁の効果を低下させるリスクも
9月末にWTIで90ドル台まで上昇していた原油価格がその後下落した背景には、この3者間合意に基づくサウジアラビアの原油増産観測があったと考えられる。ところが、イスラエルとパレスチナが戦闘状態に入ったことで、改善しつつあったサウジアラビアとイスラエルの関係改善は水を差され、米国とサウジアラビアの防衛協定に基づく原油価格の上昇抑制策も見送られる可能性があるだろう。
紛争の拡大が中東地域における原油の生産、輸送に支障を与えるようになるとの懸念に加え、イランとサウジアラビアの原油供給に影響が出てくるとの観測が、原油価格を押し上げているのである。
さらに、原油価格の上昇は、先進国による対ロ制裁の効果を低下させている面もある。ロシアの8月の石油輸出収入は171億ドルと、前月比で18億ドル、+12%増えた。これは2022年10月以来の高水準であり、ロシアによるウクライナ侵攻前の2021年の平均水準である157億ドルを上回った。
また、米国がイランの原油輸出を削減する制裁強化を実施すれば、その分、ロシアが中国向けなどへの原油輸出を拡大させる可能性がある。原油価格の上昇と原油生産・輸出量増加の両面から、ロシアを利することにもなってしまうのである。
米国は、原油価格上昇による自国経済への打撃、ロシアへの制裁の有効性、中東政策の3者のバランスを考えながら、今回のイスラエルとパレスチナの問題への対応を慎重に進めていくことが求められている。
木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト)
---
この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://t.cn/A6WhSbit)に掲載されたものです。
木内 登英
10/10(火) 16:13配信
原油価格上昇の陰にイランとサウジアラビア
イスラム組織ハマスによる7日(土)のイスラエル攻撃は、落ち着きを取り戻し始めた原油価格を押し上げ、世界のインフレ懸念を再び煽ることになった。
WTI原油先物価格は週明け後の9日(月)に、前営業日比4%強高の1バレル=86ドルまで上昇した。イスラエルとパレスチナは主要な産油地域ではなく、今回の事件によって原油供給が直ちに影響を受けることはない。
ただし、ハマスによる7日のイスラエル攻撃をイラン革命防衛隊(IRGC)が支援していた、とウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)は報じている。仮にイラン政府の関与が米政府によって確認されることになれば、バイデン米政権はイラン産原油に対する強硬姿勢を強め、原油供給に制約を与える可能性がある。イランは米国との緊張緩和によって過去1年間に原油生産を日量約50万バレル増やしたが、制裁強化となれば、それは原油価格を押し上げる。
他方、WSJは7日に、サウジアラビアは米国に対し、原油価格が高騰した場合は来年初めに原油の増産に踏み切る用意があると伝えた、と報じている。これは3者合意であり、サウジアラビアがイスラエルを国家として承認するのと引き換えに、サウジアラビアが米国からの防衛上の支援を受ける防衛協定を結ぶ方向で米連邦議会の支持を得ることを狙った動きだという。
サウジ政府は1年前に、原油価格を押し下げインフレ抑制に協力するよう求めるバイデン政権からの要請を拒否したことで、両国の関係は悪化していた。
対ロ制裁の効果を低下させるリスクも
9月末にWTIで90ドル台まで上昇していた原油価格がその後下落した背景には、この3者間合意に基づくサウジアラビアの原油増産観測があったと考えられる。ところが、イスラエルとパレスチナが戦闘状態に入ったことで、改善しつつあったサウジアラビアとイスラエルの関係改善は水を差され、米国とサウジアラビアの防衛協定に基づく原油価格の上昇抑制策も見送られる可能性があるだろう。
紛争の拡大が中東地域における原油の生産、輸送に支障を与えるようになるとの懸念に加え、イランとサウジアラビアの原油供給に影響が出てくるとの観測が、原油価格を押し上げているのである。
さらに、原油価格の上昇は、先進国による対ロ制裁の効果を低下させている面もある。ロシアの8月の石油輸出収入は171億ドルと、前月比で18億ドル、+12%増えた。これは2022年10月以来の高水準であり、ロシアによるウクライナ侵攻前の2021年の平均水準である157億ドルを上回った。
また、米国がイランの原油輸出を削減する制裁強化を実施すれば、その分、ロシアが中国向けなどへの原油輸出を拡大させる可能性がある。原油価格の上昇と原油生産・輸出量増加の両面から、ロシアを利することにもなってしまうのである。
米国は、原油価格上昇による自国経済への打撃、ロシアへの制裁の有効性、中東政策の3者のバランスを考えながら、今回のイスラエルとパレスチナの問題への対応を慎重に進めていくことが求められている。
木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト)
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この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://t.cn/A6WhSbit)に掲載されたものです。
木内 登英
日本は国家崩壊の一歩手前? 元・税務調査官が紐解く、世界の「脱税」の歴史
国が成り立つために必要な「税金」だが、我々を常に悩ませる存在と言っても過言ではないだろう。市民税に固定資産税、消費税などありとあらゆるものに税金は課されている。しかし税金に悩まされているのはどうやら現代人だけではなかったようだ。古代ギリシャやエジプト、中国・秦の人々が生きていた時代にも税金から逃れるための「脱税」はおこなわれていたという。
「世界中の太古の文献に、脱税に関する記述がでてきます。たとえば、中国を最初に統一した秦の時代の古文書に、脱税に関する罰則が記されているものがありました」
今回ご紹介する書籍『脱税の世界史』(宝島社)の著者は、元税務調査官の大村大次郎氏。同書は「脱税」を通じて世界史をたどるという、少し変わった視点の歴史書(?)だ。先述した中国・秦の始皇帝は「人頭税」を15歳~65歳までの男女に課していたそうだが、遺跡から戸籍をごまかさないよう注意を促す文書が発見されている。このことから年齢をごまかし、嘘の戸籍申告をする者が多くいたと考えられている。
「国家とは税金である」(同書より)
大村氏が同書の冒頭でこう言い切っているように、戦争や革命など国家を揺るがす事象が起きる前には「税制の破綻」がある。第7章「ヨーロッパ市民革命は脱税から始まった」や第8章「脱税業者が起こしたアメリカ独立戦争」の内容は興味深い。
フランス革命は贅沢三昧の王室に業を煮やした民衆が起こした革命と歴史で学ぶが、実際は聖職者と貴族がフランス国内の90%の富を独占していたといわれている。しかも聖職者と貴族に限っては税金も免除されていた。フランスでは土地にかけられる「タイユ税」、現代でいうところの固定資産税に近い税金が国民(主に農民)に課されており、かなり大きな負担となっていた。もちろん貴族と聖職者、及び官僚はタイユ税を免除されていた。
「実は、ルイ16世は、かなり国民思いの国王だったようなのです。というのも、この財政危機に際し、これ以上、国民から税を取らずに、貴族や教会(聖職者)に税を払ってもらおうと考えたからです」(同書より)
ルイ16世は財務長官にスイスの銀行家であるジャック・ネッケルを起用して財政の立て直しを図るが、もちろん貴族と聖職者の反感を買った。ネッケル氏は対抗して「国家の歳入・歳出を公開する」という苦肉の策を講じたのだが、怒りの矛先が王室へと向かってしまいルイ16世は処刑されてしまうことになる。
ユダヤ人を大量虐殺したナチスのヒトラーも節税には苦労していたようだ。ヒトラーの著書『我が闘争』で得た収入は現代の日本でいうと25億円ほど。収入の半分くらいの印税を納めなければならないのだが、実際は3分の1程度しか支払っていなかったという。1933年にナチスが政権を握ると、ミュンヘンの税務署長が忖度して滞納額を帳消しにしたそうだ。
ヒトラーは私たちになじみ深い税金徴収の原型をこの頃に作っている。「源泉徴収」と「扶養控除」の制度だ。労働者にとっては年に1回大きな税金を払うのではなく、毎月少しずつ税金が徴収される負担を感じにくい制度と言えるだろう。国としては会社があらかじめ天引きしてくれるため、取り立ての必要がないというメリットもある。
「労働者は手取り額しか見ませんので、もし手取り額が思ったより少なかったとしても、税金が高いのか、給料が安いのか簡単に判断がつきません。
そのため増税をしやすいのです」(同書より)
国が税金を徴収するシステムは古代も現代とさほど変わらないようだ。むしろ現代の日本よりも先進的だと大村氏が語るのが古代ローマの税制である。古代ローマでは持っている財産によって税率が変わる仕組みがあり、贅沢品(宝石や豪華な馬車など)には最高10倍の税金が課せられていた。
「『富裕層ほど税率を高くする』という累進性を世界各国が採り入れ始めたのは、20世紀に入ってからのことです。日本の消費税などは、現在でも、米もダイヤモンドも同じ税率という非常に雑な仕組みになっています」(同書より)
さらに古代ローマには「戦争税」というものもあった。戦争時、富裕層は国家に融資する義務が課せられていたのだが、戦争に勝って戦利品があった場合は融資した額に応じて「配当」があったという。どの時代も国は税を徴収するために四苦八苦していたようだ。
同書は「脱税と歴史」が主たる構成となっているが、現代の税制も絡めた考察は我々に「今のままでいいのか?」と疑問を投げかける。国家が滅ぶ典型的な道筋として「官僚の腐敗→税収減→埋め合わせのための増税→民が疲弊→国家が崩壊」という流れがあるそうだ。日本はすでに「埋め合わせのための増税」、もしくは「民が疲弊」あたりまできていないだろうか? などと考えてしまった。
国が成り立つために必要な「税金」だが、我々を常に悩ませる存在と言っても過言ではないだろう。市民税に固定資産税、消費税などありとあらゆるものに税金は課されている。しかし税金に悩まされているのはどうやら現代人だけではなかったようだ。古代ギリシャやエジプト、中国・秦の人々が生きていた時代にも税金から逃れるための「脱税」はおこなわれていたという。
「世界中の太古の文献に、脱税に関する記述がでてきます。たとえば、中国を最初に統一した秦の時代の古文書に、脱税に関する罰則が記されているものがありました」
今回ご紹介する書籍『脱税の世界史』(宝島社)の著者は、元税務調査官の大村大次郎氏。同書は「脱税」を通じて世界史をたどるという、少し変わった視点の歴史書(?)だ。先述した中国・秦の始皇帝は「人頭税」を15歳~65歳までの男女に課していたそうだが、遺跡から戸籍をごまかさないよう注意を促す文書が発見されている。このことから年齢をごまかし、嘘の戸籍申告をする者が多くいたと考えられている。
「国家とは税金である」(同書より)
大村氏が同書の冒頭でこう言い切っているように、戦争や革命など国家を揺るがす事象が起きる前には「税制の破綻」がある。第7章「ヨーロッパ市民革命は脱税から始まった」や第8章「脱税業者が起こしたアメリカ独立戦争」の内容は興味深い。
フランス革命は贅沢三昧の王室に業を煮やした民衆が起こした革命と歴史で学ぶが、実際は聖職者と貴族がフランス国内の90%の富を独占していたといわれている。しかも聖職者と貴族に限っては税金も免除されていた。フランスでは土地にかけられる「タイユ税」、現代でいうところの固定資産税に近い税金が国民(主に農民)に課されており、かなり大きな負担となっていた。もちろん貴族と聖職者、及び官僚はタイユ税を免除されていた。
「実は、ルイ16世は、かなり国民思いの国王だったようなのです。というのも、この財政危機に際し、これ以上、国民から税を取らずに、貴族や教会(聖職者)に税を払ってもらおうと考えたからです」(同書より)
ルイ16世は財務長官にスイスの銀行家であるジャック・ネッケルを起用して財政の立て直しを図るが、もちろん貴族と聖職者の反感を買った。ネッケル氏は対抗して「国家の歳入・歳出を公開する」という苦肉の策を講じたのだが、怒りの矛先が王室へと向かってしまいルイ16世は処刑されてしまうことになる。
ユダヤ人を大量虐殺したナチスのヒトラーも節税には苦労していたようだ。ヒトラーの著書『我が闘争』で得た収入は現代の日本でいうと25億円ほど。収入の半分くらいの印税を納めなければならないのだが、実際は3分の1程度しか支払っていなかったという。1933年にナチスが政権を握ると、ミュンヘンの税務署長が忖度して滞納額を帳消しにしたそうだ。
ヒトラーは私たちになじみ深い税金徴収の原型をこの頃に作っている。「源泉徴収」と「扶養控除」の制度だ。労働者にとっては年に1回大きな税金を払うのではなく、毎月少しずつ税金が徴収される負担を感じにくい制度と言えるだろう。国としては会社があらかじめ天引きしてくれるため、取り立ての必要がないというメリットもある。
「労働者は手取り額しか見ませんので、もし手取り額が思ったより少なかったとしても、税金が高いのか、給料が安いのか簡単に判断がつきません。
そのため増税をしやすいのです」(同書より)
国が税金を徴収するシステムは古代も現代とさほど変わらないようだ。むしろ現代の日本よりも先進的だと大村氏が語るのが古代ローマの税制である。古代ローマでは持っている財産によって税率が変わる仕組みがあり、贅沢品(宝石や豪華な馬車など)には最高10倍の税金が課せられていた。
「『富裕層ほど税率を高くする』という累進性を世界各国が採り入れ始めたのは、20世紀に入ってからのことです。日本の消費税などは、現在でも、米もダイヤモンドも同じ税率という非常に雑な仕組みになっています」(同書より)
さらに古代ローマには「戦争税」というものもあった。戦争時、富裕層は国家に融資する義務が課せられていたのだが、戦争に勝って戦利品があった場合は融資した額に応じて「配当」があったという。どの時代も国は税を徴収するために四苦八苦していたようだ。
同書は「脱税と歴史」が主たる構成となっているが、現代の税制も絡めた考察は我々に「今のままでいいのか?」と疑問を投げかける。国家が滅ぶ典型的な道筋として「官僚の腐敗→税収減→埋め合わせのための増税→民が疲弊→国家が崩壊」という流れがあるそうだ。日本はすでに「埋め合わせのための増税」、もしくは「民が疲弊」あたりまできていないだろうか? などと考えてしまった。
線状降水帯 世界の平均気温 現在より1度程度上昇で1.3倍 試算
2023年9月30日 18時12分
世界各地で相次ぐ記録的な大雨の背景に地球温暖化の影響が指摘されるなか、世界の平均気温が産業革命前と比べて2度、つまり、現在より1度程度上がった場合、線状降水帯の発生回数がおよそ1.3倍に増えるおそれのあることが気象庁気象研究所などの試算で明らかになりました。専門家は「温暖化が進むと線状降水帯のような激しい雨の頻度が増加し、洪水や土砂災害の発生リスクが増えるおそれがある」と指摘しています。
気象庁によりますと発達した積乱雲が帯状に連なって大雨をもたらす「線状降水帯」は、ことしは9月29日までに全国であわせて23回発生しました。
このうち、6月上旬には四国から東海にかけての各地で、7月には九州北部や北陸で相次いで発生し、川の氾濫や土砂災害のほか住宅が浸水する被害が出ました。
気象庁気象研究所や京都大学などの研究チームは、温暖化が進んだ場合に線状降水帯などの極端な大雨がどれほど増えるかシミュレーションしました。
「線状降水帯」を3時間に合計80ミリ以上の雨を降らせる一定の長さの雨雲と定義して水蒸気の量などを推計し、2010年までの60年間と、温暖化の影響で上昇した場合の気温でそれぞれ発生回数を試算しました。
その結果、2010年までの60年間では、1年あたりの線状降水帯の発生回数は平均23回だったのに対し、平均気温が産業革命前より2度、つまり現在より1度程度上昇した想定では31回とおよそ1.3倍となりました。
さらに産業革命前よりも4度上昇した場合では38回と1.6倍に増え、1回の線状降水帯による総雨量が800ミリに達するケースも増えると試算されたほか、これまで線状降水帯があまり発生していない北海道や東北北部でも回数が増加する傾向が見られたということです。
“今世紀末には産業革命前より4度前後上昇も”
気象庁によりますと温暖化への対策を取らなかった場合、世界の平均気温は今世紀末には産業革命前より4度前後上昇するとされています。
2015年の「パリ協定」に基づき、各国は世界の平均平均気温の上昇を産業革命前と比べて1.5度に抑えるよう努力することを目標に掲げています。
気象研究所気象予報研究部の渡邉俊一研究官は「温暖化が進むと人々の生活を脅かす危険な災害のリスクが増えると懸念され、本当に待ったなしの状況だ。将来の気候では経験のない雨がより起こりうるとして防災への意識を高めてもらいたい。まずは上昇を1.5度までに抑えることで大雨のリスクをこれ以上増加させないことが非常に重要です」と話していました。
2023年9月30日 18時12分
世界各地で相次ぐ記録的な大雨の背景に地球温暖化の影響が指摘されるなか、世界の平均気温が産業革命前と比べて2度、つまり、現在より1度程度上がった場合、線状降水帯の発生回数がおよそ1.3倍に増えるおそれのあることが気象庁気象研究所などの試算で明らかになりました。専門家は「温暖化が進むと線状降水帯のような激しい雨の頻度が増加し、洪水や土砂災害の発生リスクが増えるおそれがある」と指摘しています。
気象庁によりますと発達した積乱雲が帯状に連なって大雨をもたらす「線状降水帯」は、ことしは9月29日までに全国であわせて23回発生しました。
このうち、6月上旬には四国から東海にかけての各地で、7月には九州北部や北陸で相次いで発生し、川の氾濫や土砂災害のほか住宅が浸水する被害が出ました。
気象庁気象研究所や京都大学などの研究チームは、温暖化が進んだ場合に線状降水帯などの極端な大雨がどれほど増えるかシミュレーションしました。
「線状降水帯」を3時間に合計80ミリ以上の雨を降らせる一定の長さの雨雲と定義して水蒸気の量などを推計し、2010年までの60年間と、温暖化の影響で上昇した場合の気温でそれぞれ発生回数を試算しました。
その結果、2010年までの60年間では、1年あたりの線状降水帯の発生回数は平均23回だったのに対し、平均気温が産業革命前より2度、つまり現在より1度程度上昇した想定では31回とおよそ1.3倍となりました。
さらに産業革命前よりも4度上昇した場合では38回と1.6倍に増え、1回の線状降水帯による総雨量が800ミリに達するケースも増えると試算されたほか、これまで線状降水帯があまり発生していない北海道や東北北部でも回数が増加する傾向が見られたということです。
“今世紀末には産業革命前より4度前後上昇も”
気象庁によりますと温暖化への対策を取らなかった場合、世界の平均気温は今世紀末には産業革命前より4度前後上昇するとされています。
2015年の「パリ協定」に基づき、各国は世界の平均平均気温の上昇を産業革命前と比べて1.5度に抑えるよう努力することを目標に掲げています。
気象研究所気象予報研究部の渡邉俊一研究官は「温暖化が進むと人々の生活を脅かす危険な災害のリスクが増えると懸念され、本当に待ったなしの状況だ。将来の気候では経験のない雨がより起こりうるとして防災への意識を高めてもらいたい。まずは上昇を1.5度までに抑えることで大雨のリスクをこれ以上増加させないことが非常に重要です」と話していました。
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