蜜柑
芥川龍之介

 或曇つた冬の日暮である。私は横須賀発上り二等客車の隅に腰を下して、ぼんやり発車の笛を待つてゐた。とうに電燈のついた客車の中には、珍らしく私の外に一人も乗客はゐなかつた。外を覗のぞくと、うす暗いプラツトフオオムにも、今日は珍しく見送りの人影さへ跡を絶つて、唯、檻をりに入れられた小犬が一匹、時々悲しさうに、吠え立ててゐた。これらはその時の私の心もちと、不思議な位似つかはしい景色だつた。私の頭の中には云ひやうのない疲労と倦怠とが、まるで雪曇りの空のやうなどんよりした影を落してゐた。私は外套のポツケツトへぢつと両手をつつこんだ儘まま、そこにはいつてゐる夕刊を出して見ようと云ふ元気さへ起らなかつた。
 が、やがて発車の笛が鳴つた。私はかすかな心の寛くつろぎを感じながら、後の窓枠へ頭をもたせて、眼の前の停車場がずるずると後ずさりを始めるのを待つともなく待ちかまへてゐた。所がそれよりも先にけたたましい日和ひより下駄の音が、改札口の方から聞え出したと思ふと、間もなく車掌の何か云ひ罵ののしる声と共に、私の乗つてゐる二等室の戸ががらりと開いて、十三四の小娘が一人、慌あわただしく中へはいつて来た、と同時に一つづしりと揺れて、徐おもむろに汽車は動き出した。一本づつ眼をくぎつて行くプラツトフオオムの柱、置き忘れたやうな運水車、それから車内の誰かに祝儀の礼を云つてゐる赤帽――さう云ふすべては、窓へ吹きつける煤煙の中に、未練がましく後へ倒れて行つた。私は漸やうやくほつとした心もちになつて、巻煙草に火をつけながら、始めて懶ものうい睚まぶたをあげて、前の席に腰を下してゐた小娘の顔を一瞥いちべつした。
それは油気のない髪をひつつめの銀杏返いてふがへしに結つて、横なでの痕のある皸ひびだらけの両頬を気持の悪い程赤く火照ほてらせた、如何にも田舎者ゐなかものらしい娘だつた。しかも垢じみた萌黄色もえぎいろの毛糸の襟巻がだらりと垂れ下つた膝の上には、大きな風呂敷包みがあつた。その又包みを抱いた霜焼けの手の中には、三等の赤切符が大事さうにしつかり握られてゐた。私はこの小娘の下品な顔だちを好まなかつた。それから彼女の服装が不潔なのもやはり不快だつた。最後にその二等と三等との区別さへも弁わきまへない愚鈍な心が腹立たしかつた。だから巻煙草に火をつけた私は、一つにはこの小娘の存在を忘れたいと云ふ心もちもあつて、今度はポツケツトの夕刊を漫然と膝の上へひろげて見た。すると其時夕刊の紙面に落ちてゐた外光が、突然電燈の光に変つて、刷すりの悪い何欄かの活字が意外な位鮮あざやかに私の眼の前へ浮んで来た。云ふまでもなく汽車は今、横須賀線に多い隧道トンネルの最初のそれへはいつたのである。
 しかしその電燈の光に照らされた夕刊の紙面を見渡しても、やはり私の憂欝を慰むべく、世間は余りに平凡な出来事ばかりで持ち切つてゐた。講和問題、新婦新郎、涜職とくしよく事件、死亡広告――私は隧道へはいつた一瞬間、汽車の走つてゐる方向が逆になつたやうな錯覚を感じながら、それらの索漠とした記事から記事へ殆ほとんど機械的に眼を通した。が、その間も勿論あの小娘が、恰あたかも卑俗な現実を人間にしたやうな面持ちで、私の前に坐つてゐる事を絶えず意識せずにはゐられなかつた。この隧道の中の汽車と、この田舎者の小娘と、さうして又この平凡な記事に埋つてゐる夕刊と、――これが象徴でなくて何であらう。不可解な、下等な、退屈な人生の象徴でなくて何であらう。私は一切がくだらなくなつて、読みかけた夕刊を抛はふり出すと、又窓枠に頭を靠もたせながら、死んだやうに眼をつぶつて、うつらうつらし始めた。
それから幾分か過ぎた後であつた。ふと何かに脅おびやかされたやうな心もちがして、思はずあたりを見まはすと、何時いつの間にか例の小娘が、向う側から席を私の隣へ移して、頻しきりに窓を開けようとしてゐる。が、重い硝子戸ガラスどは中々思ふやうにあがらないらしい。あの皸ひびだらけの頬は愈いよいよ赤くなつて、時々鼻洟はなをすすりこむ音が、小さな息の切れる声と一しよに、せはしなく耳へはいつて来る。これは勿論私にも、幾分ながら同情を惹ひくに足るものには相違なかつた。しかし汽車が今将まさに隧道トンネルの口へさしかからうとしてゐる事は、暮色の中に枯草ばかり明い両側の山腹が、間近く窓側に迫つて来たのでも、すぐに合点がてんの行く事であつた。にも関らずこの小娘は、わざわざしめてある窓の戸を下さうとする、――その理由が私には呑みこめなかつた。いや、それが私には、単にこの小娘の気まぐれだとしか考へられなかつた。だから私は腹の底に依然として険しい感情を蓄へながら、あの霜焼けの手が硝子戸を擡もたげようとして悪戦苦闘する容子ようすを、まるでそれが永久に成功しない事でも祈るやうな冷酷な眼で眺めてゐた。すると間もなく凄じい音をはためかせて、汽車が隧道へなだれこむと同時に、小娘の開けようとした硝子戸は、とうとうばたりと下へ落ちた。さうしてその四角な穴の中から、煤すすを溶したやうなどす黒い空気が、俄にはかに息苦しい煙になつて、濛々もうもうと車内へ漲みなぎり出した。元来咽喉のどを害してゐた私は、手巾ハンケチを顔に当てる暇さへなく、この煙を満面に浴びせられたおかげで、殆ほとんど息もつけない程咳せきこまなければならなかつた。が、小娘は私に頓着する気色けしきも見えず、窓から外へ首をのばして、闇を吹く風に銀杏返いてふがへしの鬢びんの毛を戦そよがせながら、ぢつと汽車の進む方向を見やつてゐる。その姿を煤煙ばいえんと電燈の光との中に眺めた時、もう窓の外が見る見る明くなつて、そこから土の匂や枯草の匂や水の匂が冷ひややかに流れこんで来なかつたなら、漸やうやく咳きやんだ私は、この見知らない小娘を頭ごなしに叱りつけてでも、又元の通り窓の戸をしめさせたのに相違なかつたのである。
しかし汽車はその時分には、もう安々と隧道トンネルを辷すべりぬけて、枯草の山と山との間に挾まれた、或貧しい町はづれの踏切りに通りかかつてゐた。踏切りの近くには、いづれも見すぼらしい藁屋根や瓦屋根がごみごみと狭苦しく建てこんで、踏切り番が振るのであらう、唯一旒いちりうのうす白い旗が懶ものうげに暮色を揺ゆすつてゐた。やつと隧道を出たと思ふ――その時その蕭索せうさくとした踏切りの柵の向うに、私は頬の赤い三人の男の子が、目白押しに並んで立つてゐるのを見た。彼等は皆、この曇天に押しすくめられたかと思ふ程、揃そろつて背が低かつた。さうして又この町はづれの陰惨たる風物と同じやうな色の着物を着てゐた。それが汽車の通るのを仰ぎ見ながら、一斉に手を挙げるが早いか、いたいけな喉を高く反そらせて、何とも意味の分らない喊声かんせいを一生懸命に迸ほとばしらせた。するとその瞬間である。窓から半身を乗り出してゐた例の娘が、あの霜焼けの手をつとのばして、勢よく左右に振つたと思ふと、忽ち心を躍らすばかり暖な日の色に染まつてゐる蜜柑みかんが凡そ五つ六つ、汽車を見送つた子供たちの上へばらばらと空から降つて来た。私は思はず息を呑んだ。さうして刹那に一切を了解した。小娘は、恐らくはこれから奉公先へ赴おもむかうとしてゐる小娘は、その懐に蔵してゐた幾顆いくくわの蜜柑を窓から投げて、わざわざ踏切りまで見送りに来た弟たちの労に報いたのである。
暮色を帯びた町はづれの踏切りと、小鳥のやうに声を挙げた三人の子供たちと、さうしてその上に乱落する鮮あざやかな蜜柑の色と――すべては汽車の窓の外に、瞬またたく暇もなく通り過ぎた。が、私の心の上には、切ない程はつきりと、この光景が焼きつけられた。さうしてそこから、或得体えたいの知れない朗ほがらかな心もちが湧き上つて来るのを意識した。私は昂然と頭を挙げて、まるで別人を見るやうにあの小娘を注視した。小娘は何時かもう私の前の席に返つて、不相変あひかはらず皸ひびだらけの頬を萌黄色の毛糸の襟巻に埋めながら、大きな風呂敷包みを抱へた手に、しつかりと三等切符を握つてゐる。…………
 私はこの時始めて、云ひやうのない疲労と倦怠とを、さうして又不可解な、下等な、退屈な人生を僅に忘れる事が出来たのである。
(大正八年四月)

【都是sensei的翅膀:从蔚蓝档案运营到现在3周年,哪些角色的贩售同人作品最多?】

在BA3周年之际,melonbook基于网站上所有登记的BA同人作品(漫画、小说、音乐、真人写真等)进行了整理出各角色出场的同人作品数。以下是从总涉及作品数的排名,并附带了全年龄和R18的排名及介绍。前13名角色会按照人气榜第一的个人本各推一本。

注:同角色不同服饰统一进行统计。统计数据来源于melonbook作品中加了对应角色的tag的作品,不一定反映整个同人圈的作品数量情况。

①早濑优香。总作品数:506
全年龄作品数:232(第2名)
R18作品数:274(第1名)

全年龄段和成年人都非常受到许多sensei的喜爱的学生。自从BA更新活动"晄轮大祭"之后,体操服版本的优香的同人作品也不断增加。在涉及研讨会的同人作品中,优香与其他学生之间的互动也非常多,无论是搞笑、严肃还是爱情喜剧等等,优香都是广受欢迎的顶尖角色。很有感觉!

②圣园未花。总作品数:447
全年龄作品数:250(第1名)
R18作品数:197(第3名)

mika一直都很受各位同人作者的欢迎,而在二周年入池之后作品数量爆发性地增加。
在涉及mika的作品类型上主要以爱情喜剧和日常系为主,健全作品第一名实至名归。

③一之濑明日奈。总作品数:397
全年龄作品数:153(第3名)
R18作品数:244(第2名)

制服、兔女郎服、女仆装……涉及明日奈的作品以其服装变化的多样性而显著突出,尽管总作品数量排名第三,但R18比例超过惊人的60%。凭借其天生的美貌和个性以及大,这个迷人的学生迷住了许多sensei的心(很可能有别的部位)。

④砂狼白子。总作品数:286
全年龄作品数:143(第7名)
R18作品数:143(第4名)

⑤下江小春。总作品数:276
全年龄作品数:151(第5名)
R18作品数:125(第5名)

⑥小鸟游星野。总作品数:270
全年龄作品数:150(第6名)
R18作品数:120(第6名)

⑦天童爱丽丝。总作品数:246
全年龄作品数:153(第4名)
R18作品数:93(第9名)

⑧飞鸟马时。总作品数:245
全年龄作品数:126(第10名)
R18作品数:119(第7名)

⑨陆八魔阿露。总作品数:193
全年龄作品数:131(第8名)
R18作品数:62(第20名)

⑩角楯花凛。总作品数:192
全年龄作品数:86(第18名)
R18作品数:106(第8名)

11.才羽桃。总作品数:192
全年龄作品数:127(第9名)
R18作品数:63(第19名)

12.空崎日奈。总作品数:192
全年龄作品数:104(第13名)
R18作品数:78(第13名)

13.浦和花子。总作品数:192
全年龄作品数:99(第14名)
R18作品数:80(第11名)

第14-50位
PS:以 排名 名字 (总作品数/全年龄作品数/R18数)进行介绍

14位:才羽绿(179/108/71)

15位:生盐诺亚(148/64/84)

16位:阿罗娜(144/89/55)

17位:阿慈谷日富美(144/94/50)

18位:白洲梓(140/110/30)

19位:浅黄睦月(130/62/68)

20位:鬼方佳代子(122/89/33)

21位:十六夜野宫(114/79/35)

22位:伊落玛丽(108/35/73)

23位:普罗娜(108/74/34)

24位:古関忧(107/43/64)

25位:花岡柚子(106/77/29)

26位:天雨亚子(105/25/80)

27位:杏山和纱(101/49/52)

28位:錠前纱织(99/59/40)

29位:百合園圣娅(91/49/42)

30位:美甘尼禄(87/30/57)

31位:月雪宫子(87/47/40)

32位:先生(85/31/54) 【啊?】

33位:羽川莲见(84/19/65)

34位:霞沢美游(84/31/53)

35位:調月莉音(72/34/38)

36位:伊草遥香(69/48/21)

37位:久田泉奈(67/23/44)

38位:銀鏡伊织(65/28/37)

39位:明星日鞠(65/51/14)

40位:黒舘晴奈(64/45/19)

41位:尾刃康娜(61/26/35)

42位:龙华 妃咲(56/25/31)

43位:桐藤渚(56/42/14)

44位:空井咲(55/22/33)

45位:猫塚响(55/31/24)

46位:春原心奈(52/11/41)

47位:風倉萌绘(49/13/36)

48位:和泉元艾米(49/34/15)

49位:春日椿(48/17/31)

50位:黑见茜香(48/31/17)

P1:(C101) [HIGH:LAND (高嶋しょあ)] 雨と焦燥
P2:(C102)[みらくるバーン(比宮じょ-ず)] ミカ、声抑えて。
P3:[しゅにち関数 (しゅにち)] 生徒と仲良くなれるたったひとつの方法♂♀ 【这封面我实在不敢放,打码的话几乎全打了】
P4:(C103) [うるりひ老師 (うるりひ)] びゅるあか 性欲つよつよシロコとイチャラブえっち
P5:(C102) [くれり亭 (くれりて)] コハルとスケベする本
P6:[半里プラザー (半里バード)] ホシノがいいんだよ!!
P7:ガチイキしないと出られない部屋
P8:ドキドキ トキ★メキ メイドキス
P9:りくはちま撮影日誌
P10:ウサギのコウビ【这封面我只敢露个头】
P11:親友モモイとギャルゲー攻略。
P12:ヒナちゃんとイチャイチャする本
P13:露出少女と懺悔穴
#转发接龙开新年#

舞踏会(上)
芥川龍之介

       一

 明治十九年十一月三日の夜であつた。当時十七歳だつた――家けの令嬢明子あきこは、頭の禿げた父親と一しよに、今夜の舞踏会が催さるべき鹿鳴館ろくめいくあんの階段を上つて行つた。明あかるい瓦斯ガスの光に照らされた、幅の広い階段の両側には、殆ほとんど人工に近い大輪の菊の花が、三重の籬まがきを造つてゐた。菊は一番奥のがうす紅べに、中程のが濃い黄色、一番前のがまつ白な花びらを流蘇ふさの如く乱してゐるのであつた。さうしてその菊の籬の尽きるあたり、階段の上の舞踏室からは、もう陽気な管絃楽の音が、抑へ難い幸福の吐息のやうに、休みなく溢れて来るのであつた。
 明子は夙つとに仏蘭西フランス語と舞踏との教育を受けてゐた。が、正式の舞踏会に臨むのは、今夜がまだ生まれて始めてであつた。だから彼女は馬車の中でも、折々話しかける父親に、上うはの空の返事ばかり与へてゐた。それ程彼女の胸の中には、愉快なる不安とでも形容すべき、一種の落着かない心もちが根を張つてゐたのであつた。彼女は馬車が鹿鳴館の前に止るまで、何度いら立たしい眼を挙げて、窓の外に流れて行く東京の町の乏しい燈火ともしびを、見つめた事だか知れなかつた。
 が、鹿鳴館の中へはひると、間もなく彼女はその不安を忘れるやうな事件に遭遇した。と云ふのは階段の丁度中程まで来かかつた時、二人は一足先に上つて行く支那の大官に追ひついた。すると大官は肥満した体を開いて、二人を先へ通らせながら、呆あきれたやうな視線を明子へ投げた。初々うひうひしい薔薇色の舞踏服、品好く頸へかけた水色のリボン、それから濃い髪に匂つてゐるたつた一輪の薔薇の花――実際その夜の明子の姿は、この長い辮髪べんぱつを垂れた支那の大官の眼を驚かすべく、開化の日本の少女の美を遺憾ゐかんなく具へてゐたのであつた。と思ふと又階段を急ぎ足に下りて来た、若い燕尾服の日本人も、途中で二人にすれ違ひながら、反射的にちよいと振り返つて、やはり呆あきれたやうな一瞥いちべつを明子の後姿に浴せかけた。それから何故か思ひついたやうに、白い襟飾ネクタイへ手をやつて見て、又菊の中を忙しく玄関の方へ下りて行つた。
二人が階段を上り切ると、二階の舞踏室の入口には、半白の頬鬚ほほひげを蓄へた主人役の伯爵が、胸間に幾つかの勲章を帯びて、路易ルイ十五世式の装ひを凝こらした年上の伯爵夫人と一しよに、大様おほやうに客を迎へてゐた。明子はこの伯爵でさへ、彼女の姿を見た時には、その老獪らうくあいらしい顔の何処かに、一瞬間無邪気な驚嘆の色が去来したのを見のがさなかつた。人の好い明子の父親は、嬉しさうな微笑を浮べながら、伯爵とその夫人とへ手短てみじかに娘を紹介した。彼女は羞恥しうちと得意とを交かはる交がはる味つた。が、その暇にも権高けんだかな伯爵夫人の顔だちに、一点下品な気があるのを感づくだけの余裕があつた。
 舞踏室の中にも至る所に、菊の花が美しく咲き乱れてゐた。さうして又至る所に、相手を待つてゐる婦人たちのレエスや花や象牙の扇が、爽かな香水の匂の中に、音のない波の如く動いてゐた。明子はすぐに父親と分れて、その綺羅きらびやかな婦人たちの或一団と一しよになつた。それは皆同じやうな水色や薔薇色の舞踏服を着た、同年輩らしい少女であつた。彼等は彼女を迎へると、小鳥のやうにさざめき立つて、口口に今夜の彼女の姿が美しい事を褒め立てたりした。
 が、彼女がその仲間へはひるや否や、見知らない仏蘭西フランスの海軍将校が、何処からか静に歩み寄つた。さうして両腕を垂れた儘、叮嚀に日本風の会釈ゑしやくをした。明子はかすかながら血の色が、頬に上つて来るのを意識した。しかしその会釈が何を意味するかは、問ふまでもなく明かだつた。だから彼女は手にしてゐた扇を預つて貰ふべく、隣に立つてゐる水色の舞踏服の令嬢をふり返つた。と同時に意外にも、その仏蘭西の海軍将校は、ちらりと頬に微笑の影を浮べながら、異様なアクサンを帯びた日本語で、はつきりと彼女にかう云つた。
「一しよに踊つては下さいませんか。」

 間もなく明子は、その仏蘭西の海軍将校と、「美しく青きダニウブ」のヴアルスを踊つてゐた。相手の将校は、頬の日に焼けた、眼鼻立ちの鮮あざやかな、濃い口髭のある男であつた。彼女はその相手の軍服の左の肩に、長い手袋を嵌はめた手を預くべく、余りに背が低かつた。が、場馴れてゐる海軍将校は、巧に彼女をあしらつて、軽々と群集の中を舞ひ歩いた。さうして時々彼女の耳に、愛想の好い仏蘭西語の御世辞さへも囁ささやいた。
彼女はその優しい言葉に、恥しさうな微笑を酬いながら、時々彼等が踊つてゐる舞踏室の周囲へ眼を投げた。皇室の御紋章を染め抜いた紫縮緬ちりめんの幔幕まんまくや、爪を張つた蒼竜さうりゆうが身をうねらせてゐる支那の国旗の下には、花瓶々々の菊の花が、或は軽快な銀色を、或は陰欝いんうつな金色を、人波の間にちらつかせてゐた。しかもその人波は、三鞭酒シヤンパアニユのやうに湧き立つて来る、花々しい独逸ドイツ管絃楽の旋律の風に煽られて、暫くも目まぐるしい動揺を止めなかつた。明子はやはり踊つてゐる友達の一人と眼を合はすと、互に愉快さうな頷うなづきを忙しい中に送り合つた。が、その瞬間には、もう違つた踊り手が、まるで大きな蛾がが狂ふやうに、何処からか其処へ現れてゐた。
 しかし明子はその間にも、相手の仏蘭西の海軍将校の眼が、彼女の一挙一動に注意してゐるのを知つてゐた。それは全くこの日本に慣れない外国人が、如何に彼女の快活な舞踏ぶりに、興味があつたかを語るものであつた。こんな美しい令嬢も、やはり紙と竹との家の中に、人形の如く住んでゐるのであらうか。さうして細い金属の箸で、青い花の描いてある手のひら程の茶碗から、米粒を挾んで食べてゐるのであらうか。――彼の眼の中にはかう云ふ疑問が、何度も人懐しい微笑と共に往来するやうであつた。明子にはそれが可笑をかしくもあれば、同時に又誇らしくもあつた。だから彼女の華奢きやしやな薔薇色の踊り靴は、物珍しさうな相手の視線が折々足もとへ落ちる度に、一層身軽く滑なめらかな床の上を辷すべつて行くのであつた。
 が、やがて相手の将校は、この児猫のやうな令嬢の疲れたらしいのに気がついたと見えて、劬いたはるやうに顔を覗きこみながら、
「もつと続けて踊りませうか。」
「ノン・メルシイ。」
 明子は息をはずませながら、今度ははつきりとかう答へた。
 するとその仏蘭西の海軍将校は、まだヴアルスの歩みを続けながら、前後左右に動いてゐるレエスや花の波を縫つて、壁側かべぎはの花瓶の菊の方へ、悠々と彼女を連れて行つた。さうして最後の一廻転の後、其処にあつた椅子の上へ、鮮あざやかに彼女を掛けさせると、自分は一旦軍服の胸を張つて、それから又前のやうに恭うやうやしく日本風の会釈をした。

 その後又ポルカやマズユルカを踊つてから、明子はこの仏蘭西の海軍将校と腕を組んで、白と黄とうす紅と三重の菊の籬まがきの間を、階下の広い部屋へ下りて行つた。
此処には燕尾服や白い肩がしつきりなく去来する中に、銀や硝子ガラスの食器類に蔽おほはれた幾つかの食卓が、或は肉と松露しようろとの山を盛り上げたり、或はサンドウイツチとアイスクリイムとの塔を聳そばだてたり、或は又柘榴ざくろと無花果いちじゆくとの三角塔を築いたりしてゐた。殊に菊の花が埋め残した、部屋の一方の壁上には、巧な人工の葡萄蔓ぶだうつるが青々とからみついてゐる、美しい金色の格子があつた。さうしてその葡萄の葉の間には、蜂の巣のやうな葡萄の房が、累々るゐるゐと紫に下つてゐた。明子はその金色の格子の前に、頭の禿げた彼女の父親が、同年輩の紳士と並んで、葉巻を啣くはへてゐるのに遇つた。父親は明子の姿を見ると、満足さうにちよいと頷いたが、それぎり連れの方を向いて、又葉巻を燻くゆらせ始めた。
 仏蘭西の海軍将校は、明子と食卓の一つへ行つて、一しよにアイスクリイムの匙さじを取つた。彼女はその間も相手の眼が、折々彼女の手や髪や水色のリボンを掛けた頸くびへ注がれてゐるのに気がついた。それは勿論彼女にとつて、不快な事でも何でもなかつた。が、或刹那には女らしい疑ひも閃ひらめかずにはゐられなかつた。そこで黒い天鵞絨びろうどの胸に赤い椿の花をつけた、独逸人らしい若い女が二人の傍を通つた時、彼女はこの疑ひを仄ほのめかせる為に、かう云ふ感歎の言葉を発明した。
「西洋の女の方はほんたうに御美しうございますこと。」
 海軍将校はこの言葉を聞くと、思ひの外真面目に首を振つた。
「日本の女の方も美しいです。殊にあなたなぞは――」
「そんな事はこざいませんわ。」
「いえ、御世辞ではありません。その儘すぐに巴里パリの舞踏会へも出られます。さうしたら皆が驚くでせう。ワツトオの画の中の御姫様のやうですから。」
 明子はワツトオを知らなかつた。だから海軍将校の言葉が呼び起した、美しい過去の幻も――仄暗い森の噴水と凋すがれて行く薔薇との幻も、一瞬の後には名残りなく消え失せてしまはなければならなかつた。が、人一倍感じの鋭い彼女は、アイスクリイムの匙を動かしながら、僅にもう一つ残つてゐる話題に縋すがる事を忘れなかつた。
「私も巴里の舞踏会へ参つて見たうございますわ。」
海軍将校はかう云ひながら、二人の食卓を繞めぐつてゐる人波と菊の花とを見廻したが、忽ち皮肉な微笑の波が瞳の底に動いたと思ふと、アイスクリイムの匙を止めて、
「巴里ばかりではありません。舞踏会は何処でも同じ事です。」と半ば独り語のやうにつけ加へた。

 一時間の後、明子と仏蘭西フランスの海軍将校とは、やはり腕を組んだ儘、大勢の日本人や外国人と一しよに、舞踏室の外にある星月夜の露台に佇んでゐた。
 欄干一つ隔へだてた露台の向うには、広い庭園を埋めた針葉樹が、ひつそりと枝を交し合つて、その梢こずゑに点々と鬼灯提燈ほほづきぢやうちんの火を透すかしてゐた。しかも冷かな空気の底には、下の庭園から上つて来る苔の匂や落葉の匂が、かすかに寂しい秋の呼吸を漂はせてゐるやうであつた。が、すぐ後の舞踏室では、やはりレエスや花の波が、十六菊を染め抜いた紫縮緬ちりめんの幕の下に、休みない動揺を続けてゐた。さうして又調子の高い管絃楽のつむじ風が、相不変あひかはらずその人間の海の上へ、用捨ようしやもなく鞭を加へてゐた。


发布     👍 0 举报 写留言 🖊   
✋热门推荐
  • 河北一老人与儿媳发生争吵,将孙女从高楼扔出窗外致死被公诉...
  • 长见识!商场广播突然换歌,竟还有这意思…
  • 川普大帝抖一抖,亚马逊蒸发530亿!
  • "0元打车"重现江湖,美团打车与滴滴打车补贴大战一触即发
  • 忍无可忍!人民日报批偶像剧滥竽充数假装现实剧,比如…
  • 梁静茹力挺范玮琪,取关张韶涵!
  • 无头鸡存活一周 "鸡坚强"对生命的执着感动兽医
  • 微软宣布重组计划:分拆Windows拥抱AI,成立两大新部门!
  • 回家如上坟?19座坟包围一家 最近的离房子有50厘米
  • 北京首部停车法规5月1日施行 不缴停车费最高罚一千
  • 解密首脑热线里的门道
  • 流言终结者 丨 学步车真能为家长省心吗?
  • 国防部发布短片致敬老兵:舞台虽不同,本色永不改!
  • 刚刚,美国宣布驱逐俄罗斯外交官并关闭俄驻西雅图领事馆!
  • 【法制】西吉一男子去银川务工,冒充军人骗烟骗酒又骗手机
  • 原来,法国恐袭、土耳其政变都在影响着全球金融市场……
  • 钟祥“抱火哥”再现 徒手拎出冒火煤气瓶
  • 帕萨特行驶中自燃 后车边报警边大呼
  • 【终述】马刺升西部第四 杜兰特复出遭驱逐
  • iPhone支持公交卡功能终于实现