FANTASTICS、初のアリーナツアー完走
新曲「Sugar Blood Kiss」も初披露
ダンス&ボーカルグループ・FANTASTICSが21日、自身初となる単独アリーナツアー「FANTASTICS LIVE TOUR 2024 “INTERSTELLATIC FANTASTIC”」の千秋楽を東京・有明アリーナにて開催した。
-FANTASTICS、アリーナツアー完走-
オープニングでは、アルバム「FANTASTIC ROCKET」の世界観に沿ったVTRに連れられて徐々に会場のファンの期待が高まる中、今回のツアーを象徴する楽曲でもある「STARBOYS」のパフォーマンスがスタート。満員の会場は歓声に包まれた。
会場のボルテージが最高潮のなかで披露されたのは、ZOOからEXILEへと受け継がれてきた名曲で、亀田誠治がサウンドプロデュースを務めたグルーヴィーかつFANTASTICSらしい華やかなアレンジの「Choo Choo TRAIN」。ファンを巻き込むパフォーマンスにより一体感が生まれ、会場は凄まじい熱気に包まれた。
アンコールでは「Sugar Blood Kiss」も披露。本楽曲は19日にリリースされたばかりのFANTASTICSの最新曲で、現在放送中のTVアニメ「ヴァンパイア男子寮」のオープニング主題歌。New Jack Swing調のトラックの上に甘い言葉がたくさん散りばめられ「ヴァンパイア男子寮」の世界観に寄り添った内容であり、FANTASTIC史上最も「Kiss」という単語が多く登場する楽曲となっている。
-八木勇征&中島颯太、感謝語る-
ラストのMCパートでは、メンバーの八木勇征が「初の単独アリーナツアーという事もあり本当にこのツアーにはどの公演も思い出があります。会場まで足を運んでくださった全ての方に感謝の気持ちでいっぱいですし、みなさんと一緒に過ごせた事に感謝します」とコメント。また、中島颯太も「これからも皆さんの人生の中で、かけがえのない存在で居続け、一緒に歩んでいきたいと思っています。暖かく見守って下さり本当にありがとうございます。THE FINALの幕張メッセ公演に向けて、まだまだ駆け抜けていきますのでラストこの曲で1つになりましょう」と語り、「FANTASTIC 9 -Orchestra Version-」のパフォーマンスへ。会場は歓声のまま幕を閉じた。(modelpress編集部)
新曲「Sugar Blood Kiss」も初披露
ダンス&ボーカルグループ・FANTASTICSが21日、自身初となる単独アリーナツアー「FANTASTICS LIVE TOUR 2024 “INTERSTELLATIC FANTASTIC”」の千秋楽を東京・有明アリーナにて開催した。
-FANTASTICS、アリーナツアー完走-
オープニングでは、アルバム「FANTASTIC ROCKET」の世界観に沿ったVTRに連れられて徐々に会場のファンの期待が高まる中、今回のツアーを象徴する楽曲でもある「STARBOYS」のパフォーマンスがスタート。満員の会場は歓声に包まれた。
会場のボルテージが最高潮のなかで披露されたのは、ZOOからEXILEへと受け継がれてきた名曲で、亀田誠治がサウンドプロデュースを務めたグルーヴィーかつFANTASTICSらしい華やかなアレンジの「Choo Choo TRAIN」。ファンを巻き込むパフォーマンスにより一体感が生まれ、会場は凄まじい熱気に包まれた。
アンコールでは「Sugar Blood Kiss」も披露。本楽曲は19日にリリースされたばかりのFANTASTICSの最新曲で、現在放送中のTVアニメ「ヴァンパイア男子寮」のオープニング主題歌。New Jack Swing調のトラックの上に甘い言葉がたくさん散りばめられ「ヴァンパイア男子寮」の世界観に寄り添った内容であり、FANTASTIC史上最も「Kiss」という単語が多く登場する楽曲となっている。
-八木勇征&中島颯太、感謝語る-
ラストのMCパートでは、メンバーの八木勇征が「初の単独アリーナツアーという事もあり本当にこのツアーにはどの公演も思い出があります。会場まで足を運んでくださった全ての方に感謝の気持ちでいっぱいですし、みなさんと一緒に過ごせた事に感謝します」とコメント。また、中島颯太も「これからも皆さんの人生の中で、かけがえのない存在で居続け、一緒に歩んでいきたいと思っています。暖かく見守って下さり本当にありがとうございます。THE FINALの幕張メッセ公演に向けて、まだまだ駆け抜けていきますのでラストこの曲で1つになりましょう」と語り、「FANTASTIC 9 -Orchestra Version-」のパフォーマンスへ。会場は歓声のまま幕を閉じた。(modelpress編集部)
2024.04.21
modelpress 網誌報導https://t.cn/A6TRbAin
FANTASTICS、初のアリーナツアー完走 新曲「Sugar Blood Kiss」も初披露<FANTASTICS LIVE TOUR 2024 “INTERSTELLATIC FANTASTIC”>
ダンス&ボーカルグループ・FANTASTICSが21日、自身初となる単独アリーナツアー「FANTASTICS LIVE TOUR 2024 “INTERSTELLATIC FANTASTIC”」の千秋楽を東京・有明アリーナにて開催した。
FANTASTICS、アリーナツアー完走
オープニングでは、アルバム「FANTASTIC ROCKET」の世界観に沿ったVTRに連れられて徐々に会場のファンの期待が高まる中、今回のツアーを象徴する楽曲でもある「STARBOYS」のパフォーマンスがスタート。満員の会場は歓声に包まれた。
会場のボルテージが最高潮のなかで披露されたのは、ZOOからEXILEへと受け継がれてきた名曲で、亀田誠治がサウンドプロデュースを務めたグルーヴィーかつFANTASTICSらしい華やかなアレンジの「Choo Choo TRAIN」。ファンを巻き込むパフォーマンスにより一体感が生まれ、会場は凄まじい熱気に包まれた。
アンコールでは「Sugar Blood Kiss」も披露。本楽曲は19日にリリースされたばかりのFANTASTICSの最新曲で、現在放送中のTVアニメ「ヴァンパイア男子寮」のオープニング主題歌。New Jack Swing調のトラックの上に甘い言葉がたくさん散りばめられ「ヴァンパイア男子寮」の世界観に寄り添った内容であり、FANTASTIC史上最も「Kiss」という単語が多く登場する楽曲となっている。
YY&中島颯太、感謝語る
ラストのMCパートでは、メンバーのYYが「初の単独アリーナツアーという事もあり本当にこのツアーにはどの公演も思い出があります。会場まで足を運んでくださった全ての方に感謝の気持ちでいっぱいですし、みなさんと一緒に過ごせた事に感謝します」とコメント。また、中島颯太も「これからも皆さんの人生の中で、かけがえのない存在で居続け、一緒に歩んでいきたいと思っています。暖かく見守って下さり本当にありがとうございます。THE FINALの幕張メッセ公演に向けて、まだまだ駆け抜けていきますのでラストこの曲で1つになりましょう」と語り、「FANTASTIC 9 -Orchestra Version-」のパフォーマンスへ。会場は歓声のまま幕を閉じた。(modelpress編集部)
modelpress 網誌報導https://t.cn/A6TRbAin
FANTASTICS、初のアリーナツアー完走 新曲「Sugar Blood Kiss」も初披露<FANTASTICS LIVE TOUR 2024 “INTERSTELLATIC FANTASTIC”>
ダンス&ボーカルグループ・FANTASTICSが21日、自身初となる単独アリーナツアー「FANTASTICS LIVE TOUR 2024 “INTERSTELLATIC FANTASTIC”」の千秋楽を東京・有明アリーナにて開催した。
FANTASTICS、アリーナツアー完走
オープニングでは、アルバム「FANTASTIC ROCKET」の世界観に沿ったVTRに連れられて徐々に会場のファンの期待が高まる中、今回のツアーを象徴する楽曲でもある「STARBOYS」のパフォーマンスがスタート。満員の会場は歓声に包まれた。
会場のボルテージが最高潮のなかで披露されたのは、ZOOからEXILEへと受け継がれてきた名曲で、亀田誠治がサウンドプロデュースを務めたグルーヴィーかつFANTASTICSらしい華やかなアレンジの「Choo Choo TRAIN」。ファンを巻き込むパフォーマンスにより一体感が生まれ、会場は凄まじい熱気に包まれた。
アンコールでは「Sugar Blood Kiss」も披露。本楽曲は19日にリリースされたばかりのFANTASTICSの最新曲で、現在放送中のTVアニメ「ヴァンパイア男子寮」のオープニング主題歌。New Jack Swing調のトラックの上に甘い言葉がたくさん散りばめられ「ヴァンパイア男子寮」の世界観に寄り添った内容であり、FANTASTIC史上最も「Kiss」という単語が多く登場する楽曲となっている。
YY&中島颯太、感謝語る
ラストのMCパートでは、メンバーのYYが「初の単独アリーナツアーという事もあり本当にこのツアーにはどの公演も思い出があります。会場まで足を運んでくださった全ての方に感謝の気持ちでいっぱいですし、みなさんと一緒に過ごせた事に感謝します」とコメント。また、中島颯太も「これからも皆さんの人生の中で、かけがえのない存在で居続け、一緒に歩んでいきたいと思っています。暖かく見守って下さり本当にありがとうございます。THE FINALの幕張メッセ公演に向けて、まだまだ駆け抜けていきますのでラストこの曲で1つになりましょう」と語り、「FANTASTIC 9 -Orchestra Version-」のパフォーマンスへ。会場は歓声のまま幕を閉じた。(modelpress編集部)
心
夏目漱石
二階の手摺てすりに湯上りの手拭てぬぐいを懸かけて、日の目の多い春の町を見下みおろすと、頭巾ずきんを被かむって、白い髭ひげを疎まばらに生はやした下駄げたの歯入が垣の外を通る。古い鼓つづみを天秤棒てんびんぼうに括くくりつけて、竹のへらでかんかんと敲たたくのだが、その音は頭の中でふと思い出した記憶のように、鋭いくせに、どこか気が抜けている。爺さんが筋向すじむこうの医者の門の傍わきへ来て、例の冴さえ損そこなった春の鼓つづみをかんと打つと、頭の上に真白に咲いた梅の中から、一羽の小鳥が飛び出した。歯入は気がつかずに、青い竹垣をなぞえに向むこうの方へ廻り込んで見えなくなった。鳥は一摶ひとはばたきに手摺の下まで飛んで来た。しばらくは柘榴ざくろの細枝に留とまっていたが、落ちつかぬと見えて、二三度身みぶりを易かえる拍子ひょうしに、ふと欄干らんかんに倚よりかかっている自分の方を見上げるや否や、ぱっと立った。枝の上が煙けむるごとくに動いたと思ったら、小鳥はもう奇麗きれいな足で手摺の桟さんを踏ふまえている。
まだ見た事のない鳥だから、名前を知ろうはずはないが、その色合が著いちじるしく自分の心を動かした。鶯うぐいすに似て少し渋味しぶみの勝った翼つばさに、胸は燻くすんだ、煉瓦れんがの色に似て、吹けば飛びそうに、ふわついている。その辺あたりには柔やわらかな波を時々打たして、じっとおとなしくしている。怖おどすのは罪だと思って、自分もしばらく、手摺に倚ったまま、指一本も動かさずに辛抱していたが、存外鳥の方は平気なようなので、やがて思い切って、そっと身を後うしろへ引いた。同時に鳥はひらりと手摺の上に飛び上がって、すぐと眼の前に来た。自分と鳥の間はわずか一尺ほどに過ぎない。自分は半なかば無意識に右手めてを美しい鳥の方に出した。鳥は柔やわらかな翼つばさと、華奢きゃしゃな足と、漣さざなみの打つ胸のすべてを挙あげて、その運命を自分に託するもののごとく、向うからわが手の中うちに、安らかに飛び移った。自分はその時丸味のある頭を上から眺めて、この鳥は……と思った。しかしこの鳥は……の後あとはどうしても思い出せなかった。ただ心の底の方にその後あとが潜ひそんでいて、総体を薄く暈ぼかすように見えた。この心の底一面に煮染にじんだものを、ある不可思議の力で、一所ひとところに集めて判然はっきりと熟視したら、その形は、――やっぱりこの時、この場に、自分の手のうちにある鳥と同じ色の同じ物であったろうと思う。自分は直ただちに籠かごの中に鳥を入れて、春の日影の傾かたむくまで眺めていた。そうしてこの鳥はどんな心持で自分を見ているだろうかと考えた。
やがて散歩に出た。欣々然きんきんぜんとして、あてもないのに、町の数をいくつも通り越して、賑にぎやかな往来おうらいを行ける所まで行ったら、往来は右へ折れたり左へ曲ったりして、知らない人の後あとから、知らない人がいくらでも出て来る。いくら歩いても賑にぎやかで、陽気で、楽々しているから、自分はどこの点で世界と接触して、その接触するところに一種の窮屈を感ずるのか、ほとんど想像も及ばない。知らない人に幾千人となく出逢であうのは嬉うれしいが、ただ嬉しいだけで、その嬉しい人の眼つきも鼻つきもとんと頭に映らなかった。するとどこかで、宝鈴ほうれいが落ちて廂瓦ひさしがわらに当るような音がしたので、はっと思って向うを見ると、五六間先の小路こうじの入口に一人の女が立っていた。何を着ていたか、どんな髷まげに結ゆっていたか、ほとんど分らなかった。ただ眼に映ったのはその顔である。その顔は、眼と云い、口と云い、鼻と云って、離れ離れに叙述する事のむずかしい――否、眼と口と鼻と眉まゆと額といっしょになって、たった一つ自分のために作り上げられた顔である。百年の昔からここに立って、眼も鼻も口もひとしく自分を待っていた顔である。百年の後のちまで自分を従えてどこまでも行く顔である。黙って物を云う顔である。女は黙って後うしろを向いた。追いついて見ると、小路と思ったのは露次ろじで、不断ふだんの自分なら躊躇ちゅうちょするくらいに細くて薄暗い。けれども女は黙ってその中へ這入はいって行く。黙っている。けれども自分に後を跟つけて来いと云う。自分は身を穿すぼめるようにして、露次の中に這入った。
黒い暖簾のれんがふわふわしている。白い字が染抜いてある。その次には頭を掠かすめるくらいに軒灯が出ていた。真中に三階松さんがいまつが書いて下に本もととあった。その次には硝子ガラスの箱に軽焼かるやきの霰あられが詰っていた。その次には軒の下に、更紗さらさの小片こぎれを五つ六つ四角な枠わくの中に並べたのが懸かけてあった。それから香水の瓶びんが見えた。すると露次は真黒な土蔵の壁で行き留った。女は二尺ほど前にいた。と思うと、急に自分の方をふり返った。そうして急に右へ曲った。その時自分の頭は突然先刻さっきの鳥の心持に変化した。そうして女に尾ついて、すぐ右へ曲った。右へ曲ると、前よりも長い露次が、細く薄暗く、ずっと続いている。自分は女の黙って思惟するままに、この細く薄暗く、しかもずっと続いている露次の中を鳥のようにどこまでも跟いて行った。
夏目漱石
二階の手摺てすりに湯上りの手拭てぬぐいを懸かけて、日の目の多い春の町を見下みおろすと、頭巾ずきんを被かむって、白い髭ひげを疎まばらに生はやした下駄げたの歯入が垣の外を通る。古い鼓つづみを天秤棒てんびんぼうに括くくりつけて、竹のへらでかんかんと敲たたくのだが、その音は頭の中でふと思い出した記憶のように、鋭いくせに、どこか気が抜けている。爺さんが筋向すじむこうの医者の門の傍わきへ来て、例の冴さえ損そこなった春の鼓つづみをかんと打つと、頭の上に真白に咲いた梅の中から、一羽の小鳥が飛び出した。歯入は気がつかずに、青い竹垣をなぞえに向むこうの方へ廻り込んで見えなくなった。鳥は一摶ひとはばたきに手摺の下まで飛んで来た。しばらくは柘榴ざくろの細枝に留とまっていたが、落ちつかぬと見えて、二三度身みぶりを易かえる拍子ひょうしに、ふと欄干らんかんに倚よりかかっている自分の方を見上げるや否や、ぱっと立った。枝の上が煙けむるごとくに動いたと思ったら、小鳥はもう奇麗きれいな足で手摺の桟さんを踏ふまえている。
まだ見た事のない鳥だから、名前を知ろうはずはないが、その色合が著いちじるしく自分の心を動かした。鶯うぐいすに似て少し渋味しぶみの勝った翼つばさに、胸は燻くすんだ、煉瓦れんがの色に似て、吹けば飛びそうに、ふわついている。その辺あたりには柔やわらかな波を時々打たして、じっとおとなしくしている。怖おどすのは罪だと思って、自分もしばらく、手摺に倚ったまま、指一本も動かさずに辛抱していたが、存外鳥の方は平気なようなので、やがて思い切って、そっと身を後うしろへ引いた。同時に鳥はひらりと手摺の上に飛び上がって、すぐと眼の前に来た。自分と鳥の間はわずか一尺ほどに過ぎない。自分は半なかば無意識に右手めてを美しい鳥の方に出した。鳥は柔やわらかな翼つばさと、華奢きゃしゃな足と、漣さざなみの打つ胸のすべてを挙あげて、その運命を自分に託するもののごとく、向うからわが手の中うちに、安らかに飛び移った。自分はその時丸味のある頭を上から眺めて、この鳥は……と思った。しかしこの鳥は……の後あとはどうしても思い出せなかった。ただ心の底の方にその後あとが潜ひそんでいて、総体を薄く暈ぼかすように見えた。この心の底一面に煮染にじんだものを、ある不可思議の力で、一所ひとところに集めて判然はっきりと熟視したら、その形は、――やっぱりこの時、この場に、自分の手のうちにある鳥と同じ色の同じ物であったろうと思う。自分は直ただちに籠かごの中に鳥を入れて、春の日影の傾かたむくまで眺めていた。そうしてこの鳥はどんな心持で自分を見ているだろうかと考えた。
やがて散歩に出た。欣々然きんきんぜんとして、あてもないのに、町の数をいくつも通り越して、賑にぎやかな往来おうらいを行ける所まで行ったら、往来は右へ折れたり左へ曲ったりして、知らない人の後あとから、知らない人がいくらでも出て来る。いくら歩いても賑にぎやかで、陽気で、楽々しているから、自分はどこの点で世界と接触して、その接触するところに一種の窮屈を感ずるのか、ほとんど想像も及ばない。知らない人に幾千人となく出逢であうのは嬉うれしいが、ただ嬉しいだけで、その嬉しい人の眼つきも鼻つきもとんと頭に映らなかった。するとどこかで、宝鈴ほうれいが落ちて廂瓦ひさしがわらに当るような音がしたので、はっと思って向うを見ると、五六間先の小路こうじの入口に一人の女が立っていた。何を着ていたか、どんな髷まげに結ゆっていたか、ほとんど分らなかった。ただ眼に映ったのはその顔である。その顔は、眼と云い、口と云い、鼻と云って、離れ離れに叙述する事のむずかしい――否、眼と口と鼻と眉まゆと額といっしょになって、たった一つ自分のために作り上げられた顔である。百年の昔からここに立って、眼も鼻も口もひとしく自分を待っていた顔である。百年の後のちまで自分を従えてどこまでも行く顔である。黙って物を云う顔である。女は黙って後うしろを向いた。追いついて見ると、小路と思ったのは露次ろじで、不断ふだんの自分なら躊躇ちゅうちょするくらいに細くて薄暗い。けれども女は黙ってその中へ這入はいって行く。黙っている。けれども自分に後を跟つけて来いと云う。自分は身を穿すぼめるようにして、露次の中に這入った。
黒い暖簾のれんがふわふわしている。白い字が染抜いてある。その次には頭を掠かすめるくらいに軒灯が出ていた。真中に三階松さんがいまつが書いて下に本もととあった。その次には硝子ガラスの箱に軽焼かるやきの霰あられが詰っていた。その次には軒の下に、更紗さらさの小片こぎれを五つ六つ四角な枠わくの中に並べたのが懸かけてあった。それから香水の瓶びんが見えた。すると露次は真黒な土蔵の壁で行き留った。女は二尺ほど前にいた。と思うと、急に自分の方をふり返った。そうして急に右へ曲った。その時自分の頭は突然先刻さっきの鳥の心持に変化した。そうして女に尾ついて、すぐ右へ曲った。右へ曲ると、前よりも長い露次が、細く薄暗く、ずっと続いている。自分は女の黙って思惟するままに、この細く薄暗く、しかもずっと続いている露次の中を鳥のようにどこまでも跟いて行った。
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