嬰寧(下)
蒲松齢
田中貢太郎訳
嬰寧は花を愛するのが癖になっていた。そっと金の釵かんざしを質に入れて、その金で親類の家をかたっぱしから探して、佳よい花の種を買って植えたが、数月の中に、家の入口、踏石ふみいし、垣根かきね、便所にかけて花でない所はなくなった。庭の後に木香もっこうの木の棚があった。それは元から西隣の家との境にあった。嬰寧はいつもその棚の上に攀よじ登って、薔薇ばらの花のようなその花を摘んで頭髪にさした。母親は時どきそれを見つけて叱ったが嬰寧はついに改めなかった。
ある日、西隣の男がこれを見つけて、じっと見とれたが、嬰寧は逃げもせずに男の方を見て笑った。西隣の男は女が自分に気があると思ったので、心がますますとろけた。と、女は牆かきねの下に指をさして笑ってからおりていった。西隣の男は女が晩にここへ来いといったと思ったので、大悦びで日の暮れるのを待ちかねて牆の下へいった。いってみると果して女が来ていた。西隣の男はすぐ抱きかかえた。と体の一部が錐きりで刺されたように痛さが体にしみわたったので、大声に叫ぶなり踣たおれてしまった。その男の女と思ったのは一本の枯木であった。その男の父親は悴せがれの叫び声を聞きつけて走って来て、
「おい、どうした、どうした。」
といったが悴は呻うめくのみで何もいわなかった。そこへ細君が来たので悴は事実を話した。そこで火を点つけて枯木の穴を照らしてみた。そこには小さな蟹かにのようなさそりがいた。父親は木を砕いてさそりを殺し、悴をおぶったが、夜半頃になって悴は死んでしまった。
西隣では王を訟うったえて、嬰寧が怪しいことをするといった。村役人はかねてから王の才能を尊敬して、篤行の士と言うことを知っていたので、西隣の父親のいうことは誣しいごとだといって、杖むちで打たそうとした。王は西隣の父親のためにあやまってやったので、西隣の父親は釈ゆるしてもらって帰って来た。
王の母親は嬰寧にいった。
「馬鹿なことをするから、こんなことになるのだよ。もう笑うことはよして、悲しいことも知るがいいよ。村役人は幸にわかった方だから、よかったものの、これがわからない役人だったら、きっとお前を役所で調べたのだよ。もしこんなことがあったら、あれが親類へ顔向けができますか。」
嬰寧は顔色を正していった。
「もう、これからは、決して笑いません。」
母親はいった。
「人は笑わないものはないから、笑ってもいいが、ただ時と場合を考えなくちゃ。」
嬰寧はこれからはまたと笑わなかった。昔の知人に逢ってもついに笑わなかった。しかし、終日淋さびしそうな顔はしなかった。
ある夜、嬰寧は王といる時に、涙を流した。王は不思議に思って訊きいた。
「どうした。」
すると嬰寧はむせび泣きをしていった。
「これまでは日が浅いから、こんなことをいったら、怪しまれるだろうと思って黙っていましたが、今ではお母さんもあなたも、皆さんが私を可愛がってくださって、へだてをしてくださらないからありのままに申しますが、私はもと狐から生まれたものです。母が他へゆくことになって、私を没くなっているお母さんに頼んだものですから、私は十年あまりもお母さんの世話になってて、今日のようなことになりました。私には他に兄弟もありませんし、恃たのみにするのはあなたばかりです。今、お母さんは寂しい山かげにいるのですが、だれもお父さんの傍へ葬ってくれないものですから、お母さんはあの世で悲しんでいるのです。あなたがもし、費用をおかまいなさらないなら、あの世の人の悲しみをなくしてやってください。私をお世話してくだされてるから、すてておくこともできないと思って。」
王はうなずいた。
「いいとも、だがどこにあるだろう。」
嬰寧はいった。
「すぐ判わかります。」
日を期して二人は櫬ひつぎを持って出かけていった。嬰寧はいばらの生い茂った荒れはてた中を指さした。掘ってみると果して老婆の尸しがいがあった。皮膚も肉体もそのままであった。嬰寧はその尸を撫なでて泣いた。
そこで二人はその尸を櫬 に入れて帰り、秦氏の墓を尋ねて合葬した。その夜、王の夢に老婆が来て礼をいって帰った。王は寤さめてそれを嬰寧に話した。嬰寧はいった。
「私は、ゆうべ逢ったのですよ。あなたをびっくりさしてはいけないというものですから。」
王はいった。
「なぜ留とめておかなかったのだ。」
嬰寧はいった。
「あの人はあの世の人ですから、生きた人の多い、陽気の勝った所にはいられないのです。」
そこで王は訊いた。
「小栄はどうしたのだろう。」
嬰寧がいった。
「あれは狐ですよ。あれは気が利いてたから、母が私の世話をさしたものです。しょっちゅう木の実を取って来てくれました。だから私は有難いと思ってるのですが、母に訊きますと、もうお嫁にいったのですって。」
その歳から冬至とうじから百五日目にあたる寒食かんしょくの日には、夫婦で秦氏の墓へいって掃除するのを欠かさなかった。女は翌年になって一人の子を生んだが、抱かれているうちから知らない人を畏おそれなかった。そして、人さえ見れば笑ってまた大いに母のふうがあった。
异史氏曰:观其孜孜憨笑,似全无心肝者。而墙下恶作剧,其黠孰甚焉。至凄恋鬼母,反笑为哭,我婴宁殆隐于笑者矣。窃闻山中有草,名“笑矣乎”,嗅之则笑不可止。房中植此一种,则合欢忘忧,并无颜色矣。若解语花,正嫌其作态耳。
蒲松齢
田中貢太郎訳
嬰寧は花を愛するのが癖になっていた。そっと金の釵かんざしを質に入れて、その金で親類の家をかたっぱしから探して、佳よい花の種を買って植えたが、数月の中に、家の入口、踏石ふみいし、垣根かきね、便所にかけて花でない所はなくなった。庭の後に木香もっこうの木の棚があった。それは元から西隣の家との境にあった。嬰寧はいつもその棚の上に攀よじ登って、薔薇ばらの花のようなその花を摘んで頭髪にさした。母親は時どきそれを見つけて叱ったが嬰寧はついに改めなかった。
ある日、西隣の男がこれを見つけて、じっと見とれたが、嬰寧は逃げもせずに男の方を見て笑った。西隣の男は女が自分に気があると思ったので、心がますますとろけた。と、女は牆かきねの下に指をさして笑ってからおりていった。西隣の男は女が晩にここへ来いといったと思ったので、大悦びで日の暮れるのを待ちかねて牆の下へいった。いってみると果して女が来ていた。西隣の男はすぐ抱きかかえた。と体の一部が錐きりで刺されたように痛さが体にしみわたったので、大声に叫ぶなり踣たおれてしまった。その男の女と思ったのは一本の枯木であった。その男の父親は悴せがれの叫び声を聞きつけて走って来て、
「おい、どうした、どうした。」
といったが悴は呻うめくのみで何もいわなかった。そこへ細君が来たので悴は事実を話した。そこで火を点つけて枯木の穴を照らしてみた。そこには小さな蟹かにのようなさそりがいた。父親は木を砕いてさそりを殺し、悴をおぶったが、夜半頃になって悴は死んでしまった。
西隣では王を訟うったえて、嬰寧が怪しいことをするといった。村役人はかねてから王の才能を尊敬して、篤行の士と言うことを知っていたので、西隣の父親のいうことは誣しいごとだといって、杖むちで打たそうとした。王は西隣の父親のためにあやまってやったので、西隣の父親は釈ゆるしてもらって帰って来た。
王の母親は嬰寧にいった。
「馬鹿なことをするから、こんなことになるのだよ。もう笑うことはよして、悲しいことも知るがいいよ。村役人は幸にわかった方だから、よかったものの、これがわからない役人だったら、きっとお前を役所で調べたのだよ。もしこんなことがあったら、あれが親類へ顔向けができますか。」
嬰寧は顔色を正していった。
「もう、これからは、決して笑いません。」
母親はいった。
「人は笑わないものはないから、笑ってもいいが、ただ時と場合を考えなくちゃ。」
嬰寧はこれからはまたと笑わなかった。昔の知人に逢ってもついに笑わなかった。しかし、終日淋さびしそうな顔はしなかった。
ある夜、嬰寧は王といる時に、涙を流した。王は不思議に思って訊きいた。
「どうした。」
すると嬰寧はむせび泣きをしていった。
「これまでは日が浅いから、こんなことをいったら、怪しまれるだろうと思って黙っていましたが、今ではお母さんもあなたも、皆さんが私を可愛がってくださって、へだてをしてくださらないからありのままに申しますが、私はもと狐から生まれたものです。母が他へゆくことになって、私を没くなっているお母さんに頼んだものですから、私は十年あまりもお母さんの世話になってて、今日のようなことになりました。私には他に兄弟もありませんし、恃たのみにするのはあなたばかりです。今、お母さんは寂しい山かげにいるのですが、だれもお父さんの傍へ葬ってくれないものですから、お母さんはあの世で悲しんでいるのです。あなたがもし、費用をおかまいなさらないなら、あの世の人の悲しみをなくしてやってください。私をお世話してくだされてるから、すてておくこともできないと思って。」
王はうなずいた。
「いいとも、だがどこにあるだろう。」
嬰寧はいった。
「すぐ判わかります。」
日を期して二人は櫬ひつぎを持って出かけていった。嬰寧はいばらの生い茂った荒れはてた中を指さした。掘ってみると果して老婆の尸しがいがあった。皮膚も肉体もそのままであった。嬰寧はその尸を撫なでて泣いた。
そこで二人はその尸を櫬 に入れて帰り、秦氏の墓を尋ねて合葬した。その夜、王の夢に老婆が来て礼をいって帰った。王は寤さめてそれを嬰寧に話した。嬰寧はいった。
「私は、ゆうべ逢ったのですよ。あなたをびっくりさしてはいけないというものですから。」
王はいった。
「なぜ留とめておかなかったのだ。」
嬰寧はいった。
「あの人はあの世の人ですから、生きた人の多い、陽気の勝った所にはいられないのです。」
そこで王は訊いた。
「小栄はどうしたのだろう。」
嬰寧がいった。
「あれは狐ですよ。あれは気が利いてたから、母が私の世話をさしたものです。しょっちゅう木の実を取って来てくれました。だから私は有難いと思ってるのですが、母に訊きますと、もうお嫁にいったのですって。」
その歳から冬至とうじから百五日目にあたる寒食かんしょくの日には、夫婦で秦氏の墓へいって掃除するのを欠かさなかった。女は翌年になって一人の子を生んだが、抱かれているうちから知らない人を畏おそれなかった。そして、人さえ見れば笑ってまた大いに母のふうがあった。
异史氏曰:观其孜孜憨笑,似全无心肝者。而墙下恶作剧,其黠孰甚焉。至凄恋鬼母,反笑为哭,我婴宁殆隐于笑者矣。窃闻山中有草,名“笑矣乎”,嗅之则笑不可止。房中植此一种,则合欢忘忧,并无颜色矣。若解语花,正嫌其作态耳。
宮世琉弥、胸キュンシーンは「スポーツ」 名場面“ジャージキス”撮影秘話告白「安心して見れますか?」
俳優の宮世琉弥(20)と原菜乃華(20)が13日、都内で行われた映画『恋わずらいのエリー』(3月15日公開)のバレンタインスペシャルイベントに登壇した。
今作は、藤もも氏による同名漫画を実写映画化。オミくんこと近江章(宮世)は、表の顔は学校イチのさわやか王子だが、実は口の悪いウラオモテ男子。“オミくん”を眺め、“恋わずらいのエリー”の名前でSNS上に妄想をつぶやくエリー(原)が、現実の恋に奮闘する青春ラブストーリーとなっている。
見どころを問われた原は「オミくんがエリーにジャージをかぶせて、キスをするという”ジャージキス”が売りになっています」と原作でもある名場面をアピール。「顔が見れないので、雰囲気を感じて(撮影した)」と難しい撮影だったと明かした。
宮世は「エゴサをしていて、『胸キュンシーン、見れない』って言ってる方いますが、胸キュンシーンはスポーツなんです」と持論を展開し、「アングルを気にして、運次第なところもあるので。失敗できないし、日も暗くなるって気にして、あせっていました」と撮影を回想。続けて「これで、だいぶ嫉妬は和らいだんじゃないかな。ちょっと安心して見れますか?」と会場に呼びかけた。
イベントには、西村拓哉(Lil かんさい)、白宮みずほ、藤本洸大、綱啓永、三木康一郎監督も登壇した。
俳優の宮世琉弥(20)と原菜乃華(20)が13日、都内で行われた映画『恋わずらいのエリー』(3月15日公開)のバレンタインスペシャルイベントに登壇した。
今作は、藤もも氏による同名漫画を実写映画化。オミくんこと近江章(宮世)は、表の顔は学校イチのさわやか王子だが、実は口の悪いウラオモテ男子。“オミくん”を眺め、“恋わずらいのエリー”の名前でSNS上に妄想をつぶやくエリー(原)が、現実の恋に奮闘する青春ラブストーリーとなっている。
見どころを問われた原は「オミくんがエリーにジャージをかぶせて、キスをするという”ジャージキス”が売りになっています」と原作でもある名場面をアピール。「顔が見れないので、雰囲気を感じて(撮影した)」と難しい撮影だったと明かした。
宮世は「エゴサをしていて、『胸キュンシーン、見れない』って言ってる方いますが、胸キュンシーンはスポーツなんです」と持論を展開し、「アングルを気にして、運次第なところもあるので。失敗できないし、日も暗くなるって気にして、あせっていました」と撮影を回想。続けて「これで、だいぶ嫉妬は和らいだんじゃないかな。ちょっと安心して見れますか?」と会場に呼びかけた。
イベントには、西村拓哉(Lil かんさい)、白宮みずほ、藤本洸大、綱啓永、三木康一郎監督も登壇した。
綱啓永、再共演の宮世琉弥は「大人になっていた…」《つなりゅび》イベントでも親しげ“急接近”
俳優の宮世琉弥(20)と綱啓永(25)が13日、都内で行われた映画『恋わずらいのエリー』(3月15日公開)のバレンタインスペシャルイベントに登壇。『君の花になる』(2022年/TBS)以来の“つなりゅび”共演について語った。
綱は「琉弥との共演はめっちゃうれしかったです」とにっこり。「大人になってて。10代から20代になるこの1年って大きい」としみじみと語り「落ちつきがすごいし、主演として現場をまとめてくれているなと感じていました」と語った。宮世は「そうっすね」と照れ笑いを浮かべていた。
同席した藤本洸大の「バリ緊張しています」というあいさつに合わせ、綱は「僕も緊張しているので」と引き締まった表情であいさつ。すると、宮世は「緊張してるの?」とニヤリとしながら綱に接近した。綱は「バリ緊張しているよ。裏でドキドキいっていたんだから」と、タジタジしながらも笑い合う親しげな様子を見せた。
今作は、藤もも氏による同名漫画を実写映画化。オミくんこと近江章(宮世)は、表の顔は学校イチのさわやか王子だが、実は口の悪いウラオモテ男子。“オミくん”を眺め、“恋わずらいのエリー”の名前でSNS上に妄想をつぶやくエリー(原菜乃華)が、現実の恋に奮闘する青春ラブストーリーとなっている。
イベントには、原、西村拓哉(Lil かんさい)、白宮みずほ、藤本、三木康一郎監督も登壇した。
俳優の宮世琉弥(20)と綱啓永(25)が13日、都内で行われた映画『恋わずらいのエリー』(3月15日公開)のバレンタインスペシャルイベントに登壇。『君の花になる』(2022年/TBS)以来の“つなりゅび”共演について語った。
綱は「琉弥との共演はめっちゃうれしかったです」とにっこり。「大人になってて。10代から20代になるこの1年って大きい」としみじみと語り「落ちつきがすごいし、主演として現場をまとめてくれているなと感じていました」と語った。宮世は「そうっすね」と照れ笑いを浮かべていた。
同席した藤本洸大の「バリ緊張しています」というあいさつに合わせ、綱は「僕も緊張しているので」と引き締まった表情であいさつ。すると、宮世は「緊張してるの?」とニヤリとしながら綱に接近した。綱は「バリ緊張しているよ。裏でドキドキいっていたんだから」と、タジタジしながらも笑い合う親しげな様子を見せた。
今作は、藤もも氏による同名漫画を実写映画化。オミくんこと近江章(宮世)は、表の顔は学校イチのさわやか王子だが、実は口の悪いウラオモテ男子。“オミくん”を眺め、“恋わずらいのエリー”の名前でSNS上に妄想をつぶやくエリー(原菜乃華)が、現実の恋に奮闘する青春ラブストーリーとなっている。
イベントには、原、西村拓哉(Lil かんさい)、白宮みずほ、藤本、三木康一郎監督も登壇した。
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