大雨特別警報を警報に切り替え 引き続き厳重警戒を
福岡県と大分県では大雨の特別警報が警報に切り替えられましたが、引き続き土砂災害や川の氾濫に厳重に警戒してください。
気象庁によりますと、過去には雨が弱まったりやんだりしてから数時間たって土砂災害が発生し、犠牲者が出たケースや、大雨の特別警報が解除されたあとに川の氾濫が発生して大きな被害となったケースがあります。
土の中の“タンク”には大量の水が
2018年の西日本豪雨では、天気が回復し復旧作業が進む中で広島県府中町を流れる榎川の上流で土石流が発生し、住宅に土砂が流れ込みました。
また1997年には鹿児島県出水市で雨がやんだおよそ4時間後に大規模な土石流が発生し、21人が死亡しました。
線状降水帯が発生するなど記録的な大雨となった九州を中心に、土砂災害の危険度の指標となる「土壌雨量指数」が高くなっている地域があり、今後の雨で土砂災害の危険度が急激に高まるおそれがあります。
「土壌雨量指数」は降った雨がどれくらい土の中にたまっているか、水分量を示す指標です。気象庁の大雨警報や土砂災害警戒情報はこのデータをもとに発表されています。九州では線状降水帯が発生した10日の明け方から朝にかけて「土壌雨量指数」が高くなり、夕方になってもふだんよりも高い状態となっています。
土砂災害に詳しい専門家によると、一般的に雨がやんで1日や2日では土の中の水分はほとんど抜けず、地質の違いを考慮しても、ある程度の水分が残ったままの状態が続くということです。つまり、土の中の“タンク”は水がたまった状態で抜けきっていないため、今後、少しの雨で土砂災害が発生したり、規模の大きな災害につながる危険性があります。
気象庁の土砂災害警戒情報や自治体からの避難の情報などに注意してすぐに避難できるよう準備をしておいてください。
前兆現象が起きることも
また、土砂災害が発生する前には「前兆現象」が起きることがあります。
例えば、
▽斜面から小石が落ちてくる、
▽斜面に亀裂ができる、
▽斜面から突然水が湧き出したり 川の水が急に少なくなったりするほか、
▽「山鳴り」や「地響き」がするといったものです。
土砂災害警戒情報や避難の情報が出ていなかったとしても、こうした、いつもと異なる現象に気づいた場合は、すぐに崖や斜面から離れて安全な場所に避難してください。※土砂災害の前に必ず前兆が見られるわけではないことに留意してください※
特別警報解除後に氾濫 大河川の水位すぐに下がらず
2019年の台風19号では、大雨の特別警報が解除されたあと、長野県の千曲川や宮城県の吉田川など複数の河川で氾濫が発生しました。
長野市では大雨特別警報が解除されたあと避難所から自宅へ戻り、その後、川の氾濫によって自宅が浸水したという人もいました。
九州の雨は弱まっていますが、福岡県では筑後川上中流部で避難指示の発令の目安となる「氾濫危険情報」が発表されているほか、現在も水位が高い状態が続いている川があります。
山あいの広い範囲に降った雨が大きな川に流れ込むまでには時間がかかるため、雨がやんだり降り方が弱まったりしても時間差で水位が上昇するおそれがあります。
増水した川には近づかず、自治体の情報などをもとに引き続き安全な場所で避難を続けて下さい。
福岡県と大分県では大雨の特別警報が警報に切り替えられましたが、引き続き土砂災害や川の氾濫に厳重に警戒してください。
気象庁によりますと、過去には雨が弱まったりやんだりしてから数時間たって土砂災害が発生し、犠牲者が出たケースや、大雨の特別警報が解除されたあとに川の氾濫が発生して大きな被害となったケースがあります。
土の中の“タンク”には大量の水が
2018年の西日本豪雨では、天気が回復し復旧作業が進む中で広島県府中町を流れる榎川の上流で土石流が発生し、住宅に土砂が流れ込みました。
また1997年には鹿児島県出水市で雨がやんだおよそ4時間後に大規模な土石流が発生し、21人が死亡しました。
線状降水帯が発生するなど記録的な大雨となった九州を中心に、土砂災害の危険度の指標となる「土壌雨量指数」が高くなっている地域があり、今後の雨で土砂災害の危険度が急激に高まるおそれがあります。
「土壌雨量指数」は降った雨がどれくらい土の中にたまっているか、水分量を示す指標です。気象庁の大雨警報や土砂災害警戒情報はこのデータをもとに発表されています。九州では線状降水帯が発生した10日の明け方から朝にかけて「土壌雨量指数」が高くなり、夕方になってもふだんよりも高い状態となっています。
土砂災害に詳しい専門家によると、一般的に雨がやんで1日や2日では土の中の水分はほとんど抜けず、地質の違いを考慮しても、ある程度の水分が残ったままの状態が続くということです。つまり、土の中の“タンク”は水がたまった状態で抜けきっていないため、今後、少しの雨で土砂災害が発生したり、規模の大きな災害につながる危険性があります。
気象庁の土砂災害警戒情報や自治体からの避難の情報などに注意してすぐに避難できるよう準備をしておいてください。
前兆現象が起きることも
また、土砂災害が発生する前には「前兆現象」が起きることがあります。
例えば、
▽斜面から小石が落ちてくる、
▽斜面に亀裂ができる、
▽斜面から突然水が湧き出したり 川の水が急に少なくなったりするほか、
▽「山鳴り」や「地響き」がするといったものです。
土砂災害警戒情報や避難の情報が出ていなかったとしても、こうした、いつもと異なる現象に気づいた場合は、すぐに崖や斜面から離れて安全な場所に避難してください。※土砂災害の前に必ず前兆が見られるわけではないことに留意してください※
特別警報解除後に氾濫 大河川の水位すぐに下がらず
2019年の台風19号では、大雨の特別警報が解除されたあと、長野県の千曲川や宮城県の吉田川など複数の河川で氾濫が発生しました。
長野市では大雨特別警報が解除されたあと避難所から自宅へ戻り、その後、川の氾濫によって自宅が浸水したという人もいました。
九州の雨は弱まっていますが、福岡県では筑後川上中流部で避難指示の発令の目安となる「氾濫危険情報」が発表されているほか、現在も水位が高い状態が続いている川があります。
山あいの広い範囲に降った雨が大きな川に流れ込むまでには時間がかかるため、雨がやんだり降り方が弱まったりしても時間差で水位が上昇するおそれがあります。
増水した川には近づかず、自治体の情報などをもとに引き続き安全な場所で避難を続けて下さい。
【【福岡県、佐賀県、大分県に「顕著な大雨に関する情報」】】
命に危険が及ぶ災害が発生する危険性が急激に高まる
2023年07月10日08時20分
「顕著な大雨に関する情報」は発達した積乱雲が帯状に連なる「線状降水帯」が発生し、非常に激しい雨が同じ場所に降り続いて土砂災害や洪水の危険性が急激に高まった時に発表されます。
「線状降水帯」は2020年の7月豪雨や2018年の西日本豪雨など、これまでの豪雨災害で繰り返し確認され、予報を上回って短い時間で状況が悪化する危険性があります。
この情報が出た際は
▽自治体からの避難の情報に基づき、周囲の状況を確かめて早めの避難をするほか
▽すでに避難場所までの移動が危険な場合は、崖や沢から離れた近くの頑丈な建物に移動したり建物の2階以上など浸水しにくい高い場所に移動したりするなど
身の安全を確保することが重要です。
情報が発表される基準は
▽3時間の解析雨量が100ミリ以上になっている範囲が500平方キロメートル以上あることや
▽その領域の形状が「線状」であることなどと決められています。
ただ台風本体の雨雲が近づいた時など「線状降水帯」とは言えない状況でも発表されることがあります。
注意が必要なのはこの情報が発表された際、すでに外に出ることすら危険になっているおそれもあることです。
気象庁が過去の災害事例で検証したところ「顕著な大雨に関する情報」を発表する基準に達していない段階でも、大きな被害が出ていた事例があるということです。
また情報が出ていない地域でも今後、雨雲が移動し、急激に状況が悪化するおそれもあります。
このため気象庁は避難情報に直結はせず危機感を高めてもらうための情報だとし、5段階で運用されている大雨警戒レベルでは「レベル4“相当以上”」だとしています。
そのうえで情報を待つことなく
▽気象庁のホームページで確認できる危険度分布や
▽河川の水位情報などをもとに
早めの避難を心がけてほしいと呼びかけています。
命に危険が及ぶ災害が発生する危険性が急激に高まる
2023年07月10日08時20分
「顕著な大雨に関する情報」は発達した積乱雲が帯状に連なる「線状降水帯」が発生し、非常に激しい雨が同じ場所に降り続いて土砂災害や洪水の危険性が急激に高まった時に発表されます。
「線状降水帯」は2020年の7月豪雨や2018年の西日本豪雨など、これまでの豪雨災害で繰り返し確認され、予報を上回って短い時間で状況が悪化する危険性があります。
この情報が出た際は
▽自治体からの避難の情報に基づき、周囲の状況を確かめて早めの避難をするほか
▽すでに避難場所までの移動が危険な場合は、崖や沢から離れた近くの頑丈な建物に移動したり建物の2階以上など浸水しにくい高い場所に移動したりするなど
身の安全を確保することが重要です。
情報が発表される基準は
▽3時間の解析雨量が100ミリ以上になっている範囲が500平方キロメートル以上あることや
▽その領域の形状が「線状」であることなどと決められています。
ただ台風本体の雨雲が近づいた時など「線状降水帯」とは言えない状況でも発表されることがあります。
注意が必要なのはこの情報が発表された際、すでに外に出ることすら危険になっているおそれもあることです。
気象庁が過去の災害事例で検証したところ「顕著な大雨に関する情報」を発表する基準に達していない段階でも、大きな被害が出ていた事例があるということです。
また情報が出ていない地域でも今後、雨雲が移動し、急激に状況が悪化するおそれもあります。
このため気象庁は避難情報に直結はせず危機感を高めてもらうための情報だとし、5段階で運用されている大雨警戒レベルでは「レベル4“相当以上”」だとしています。
そのうえで情報を待つことなく
▽気象庁のホームページで確認できる危険度分布や
▽河川の水位情報などをもとに
早めの避難を心がけてほしいと呼びかけています。
#健康要有文化素養 & 哲學頭腦#
産業界の立場から人生100年時代を考える
渡辺 捷昭(わたなべ かつあき)
公益財団法人長寿科学振興財団会長
人生100年時代の人生設計3つの変革が課題
私は、根っからの産業人です。トヨタ自動車の経営、経団連での活動、政府、経済産業省の委員などを務めてきました。医療の専門家ではありませんが、産業界からの立場としてお話しさせていただきます。これからの人生100年時代を迎えるに当たり、皆さまにお役に立つお話ができれば幸いです。
長寿国のトップを走る日本が世界に注目される中、日本老年学会・日本老年医学会が発表した高齢者の新たな定義の提言は非常に意義のあることです。私にとっても、新鮮に感じました。
平均寿命が延び、健康寿命も延びて元気な高齢者が増えてきました。そのような高齢者の活躍の場をつくることがますます重要になってきます。能力や経験や知識を持っている人が何歳になってもそれをフルに発揮できるような社会を、国を挙げて構築していく必要があります。まさに人生100年時代の人生設計・社会設計といえます。
年齢に捉われることなく多様な1人ひとりが活躍できる社会を構築するためには3つの課題があります。大変大きな課題ではありますが、次への大きな飛躍のチャンスとして捉えています。
3つの課題とは、「1人ひとりの意識改革」、「社会環境と社会制度の変革」、「産業界の変革」です。
まず第1に「1人ひとりの意識改革」が重要な課題です。かつては人生50年時代、人生80年時代といわれてきました。これからの人生100年時代を迎える本人の覚悟と意欲がなければいけません。昭和の時代、多くの企業では55歳定年制度を採用していました。「50歳はもう老人だ」と思われていました。それが今は60歳定年制度が導入され、希望すれば65歳まで継続して働くことが可能になっています。さらに、70歳も視野に入っています。
また、医学の発達などにより高齢者の健康度や体力が以前と比べて相当上がってきています。そのような中、高齢者が活躍する場所、働く場所をどのようにつくるかが大切になってきます。それは収入に結びつかないボランティア活動なども含めてです。ただし、すべて本人の意識・意欲と体力がなければできません。したがって、まずは「1人ひとりのその気になる意識改革」が大切といえます。
2つ目は、「社会環境と社会制度の変革」です。社会にはいろいろな人がいて、いろいろな仕事があります。その人の持っている意欲、能力、経験を総合的に勘案して対応しなくてはいけません。たとえば後継者育成の高い技能を持っていればそれを若手に伝承する場を設けるなど、活躍の場をつくっていくことです。そういうことが社会の環境整備につながるのです。
社会制度の変革で考えると、産業界でいえば「働き方改革」です。知的労働であればある程度年を重ねてもできますが、年とともに体力が衰えることは避けられません。肉体的な制限がある労働には一律に定年延長はそぐわないでしょう。その企業の風土や成り立ちによって、働く人の個人の能力と意欲によって定年は変わってきてもよいと思います。
3つ目は「産業界の変革」です。人生100年時代、少子高齢社会に、産業界は何を期待され、何をすべきでしょうか。それは多様な高齢者に寄り添った、高齢社会の課題に対応するモノ、サービス、情報、システムの提供です。そのためにイノベーションを起こし、新しい産業を創出し、高齢者向けの市場を生み出すことにより、活力のある社会の実現に貢献することです。
めざましい技術の進歩があり、ビッグデータ、IoT、AI、ロボティクスを駆使して経営していく時代になりました。そういった技術の進歩・イノベーションと人の働き方は常に相関関係にあります。年齢という軸で考えたときに、労働適応年齢が上がっていくことは間違いありません。たとえば肉体労働の分野でもロボットを操作する仕事であれば、70歳を超えても幅広い年齢で操作ができます。ですから労働年齢は変化するのです。そこは常に見ておかなくてはいけません。同時に男女の垣根もなくなるといっていいでしょう。
「1人ひとりの意識改革」、「社会環境と社会制度の変革」、「産業界の変革」と大きく3つの課題を挙げました。それぞれが複雑に関連していて、解決には産官学の連携と強いリーダーシップが求められます。つまり、オールジャパンとしての取り組みを一層強化する必要があります。
経営者の視座から人生100年時代の課題への対応
ここからは私の経営者としての視座に触れさせていただきます。先に指摘した人生100年時代の課題解決の一助になれば幸いです。
それは5つあります。1つ目は、「世界の中の」という視座です。「世界の中の日本」「世界の技術と日本の技術」など、常に世界との関わりを視野に入れておくことです。世界の先頭を走り、世界からベンチマークされる日本の超高齢社会問題についても、その視座が必要でしょう。
2つ目は、社会のお役に立つ、お客様に喜んでいただく商品、サービスを徹底的に考え、開発することです。
車でいえば、開発の軸は「環境、エネルギー、安心、安全、快適」です。これらにおけるマイナス要素を最小限にし、プラス要素を最大限にするということです。
高齢社会のメリット、高齢社会のデメリットは何か、それを最大限、最小限にしなければなりません。
3つ目は、人材育成です。事業の継承、発展のために必要なことは、人材育成、後継者の育成です。「モノづくりは人づくり」「教え教えられる組織」という言葉があります。モノは人がつくる、よいアイディアも人から生まれます。先輩は後輩に寄り添って現場で徹底的に教え込み、謙虚に後輩の発言に耳を傾けるということです。知識、技術を伝承することが大切なのです。すべては人づくりからで、医療の現場でもそうでしょう。
4つ目は、人生100年時代における仕事の環境づくりです。「明るく、楽しく、元気よく」が私の信条です。「明るく」はプラス思考ということです。プラス思考は絶対的に明るく、マイナス思考では暗くなります。「楽しく」は主体性を持つということです。人に言われてやるのはあまり楽しくありません。人から言われたことでも、それがいいと同感・共感して自分のものとして行えば、主体性があって楽しくなります。「元気よく」は、「いいと思ったらすぐにやる」ということです。それが元気のよさだと思います。「明るく、楽しく、元気よく」は、あらゆる活動に通じるでしょう。
5つ目は「全体最適」と「部分最適」です。部分最適を積み重ねていっても、必ずしも全体最適にはなるとは限りません。部分最適が全体最適だと思い込んでいる人に全体最適を言ってもなかなかわかりません。リーダーはどこにウェイトをかけるべきか、全体最適の視点を常に持ち、組織を変革する必要があります。それには、高い見識とリーダーシップが求められます。高齢者の問題は、医療、看護、介護、経済、さらに心の問題など多岐にわたっています。さらに社会制度の問題も含めて、全体として最適化する発想が重要です。
高齢社会のあるべき姿を追い求め産官学民一体で取り組む
日本は少子高齢化の典型的な先進国であり、その対応は世界のベンチマークとなりえます。産官学の連携と言いましたが、まずは産産、官官、学学です。その上で、産官学一体となってこの問題に取り組まねばなりません。
今の情報通信技術やロボティクス、AIなどを駆使すれば、社会も産業も変わり、働き方も変わっていきます。それを支えるアカデミアの「学」がさらに深化した研究を進めていただきたい。それを実現できるように、「官」には「学」や「産」を引っ張っていく役割があり、さらに「民」が加わって、やがて国策となります。産官学民の一体的な連携が大事になるのです。
そして大切なのは、これからの超高齢社会のあるべき姿に向けて、リーダーは「夢を語り」、「全体最適」の視点で、皆と「明るく楽しく元気よく」課題に取り組んでいくことでしょう。
筆者
筆者_渡辺会長
渡辺 捷昭(わたなべ かつあき)
公益財団法人長寿科学振興財団会長
略歴
慶應義塾大学経済学部卒業後、1964年:トヨタ自動車工業株式会社(現トヨタ自動車)入社。1992年:取締役、1997年:常務、1999年:専務、2001年:副社長を経て、2005年:社長、2009年:副会長、2011年:相談役、2015年から顧問を務めた。2009年から日本経済団体連合会副会長を務め、2012年から首都高速株式会社取締役会長を務めた。2010年より現職。2009年:藍綬褒章受章、2018年:旭日大綬章受章
産業界の立場から人生100年時代を考える
渡辺 捷昭(わたなべ かつあき)
公益財団法人長寿科学振興財団会長
人生100年時代の人生設計3つの変革が課題
私は、根っからの産業人です。トヨタ自動車の経営、経団連での活動、政府、経済産業省の委員などを務めてきました。医療の専門家ではありませんが、産業界からの立場としてお話しさせていただきます。これからの人生100年時代を迎えるに当たり、皆さまにお役に立つお話ができれば幸いです。
長寿国のトップを走る日本が世界に注目される中、日本老年学会・日本老年医学会が発表した高齢者の新たな定義の提言は非常に意義のあることです。私にとっても、新鮮に感じました。
平均寿命が延び、健康寿命も延びて元気な高齢者が増えてきました。そのような高齢者の活躍の場をつくることがますます重要になってきます。能力や経験や知識を持っている人が何歳になってもそれをフルに発揮できるような社会を、国を挙げて構築していく必要があります。まさに人生100年時代の人生設計・社会設計といえます。
年齢に捉われることなく多様な1人ひとりが活躍できる社会を構築するためには3つの課題があります。大変大きな課題ではありますが、次への大きな飛躍のチャンスとして捉えています。
3つの課題とは、「1人ひとりの意識改革」、「社会環境と社会制度の変革」、「産業界の変革」です。
まず第1に「1人ひとりの意識改革」が重要な課題です。かつては人生50年時代、人生80年時代といわれてきました。これからの人生100年時代を迎える本人の覚悟と意欲がなければいけません。昭和の時代、多くの企業では55歳定年制度を採用していました。「50歳はもう老人だ」と思われていました。それが今は60歳定年制度が導入され、希望すれば65歳まで継続して働くことが可能になっています。さらに、70歳も視野に入っています。
また、医学の発達などにより高齢者の健康度や体力が以前と比べて相当上がってきています。そのような中、高齢者が活躍する場所、働く場所をどのようにつくるかが大切になってきます。それは収入に結びつかないボランティア活動なども含めてです。ただし、すべて本人の意識・意欲と体力がなければできません。したがって、まずは「1人ひとりのその気になる意識改革」が大切といえます。
2つ目は、「社会環境と社会制度の変革」です。社会にはいろいろな人がいて、いろいろな仕事があります。その人の持っている意欲、能力、経験を総合的に勘案して対応しなくてはいけません。たとえば後継者育成の高い技能を持っていればそれを若手に伝承する場を設けるなど、活躍の場をつくっていくことです。そういうことが社会の環境整備につながるのです。
社会制度の変革で考えると、産業界でいえば「働き方改革」です。知的労働であればある程度年を重ねてもできますが、年とともに体力が衰えることは避けられません。肉体的な制限がある労働には一律に定年延長はそぐわないでしょう。その企業の風土や成り立ちによって、働く人の個人の能力と意欲によって定年は変わってきてもよいと思います。
3つ目は「産業界の変革」です。人生100年時代、少子高齢社会に、産業界は何を期待され、何をすべきでしょうか。それは多様な高齢者に寄り添った、高齢社会の課題に対応するモノ、サービス、情報、システムの提供です。そのためにイノベーションを起こし、新しい産業を創出し、高齢者向けの市場を生み出すことにより、活力のある社会の実現に貢献することです。
めざましい技術の進歩があり、ビッグデータ、IoT、AI、ロボティクスを駆使して経営していく時代になりました。そういった技術の進歩・イノベーションと人の働き方は常に相関関係にあります。年齢という軸で考えたときに、労働適応年齢が上がっていくことは間違いありません。たとえば肉体労働の分野でもロボットを操作する仕事であれば、70歳を超えても幅広い年齢で操作ができます。ですから労働年齢は変化するのです。そこは常に見ておかなくてはいけません。同時に男女の垣根もなくなるといっていいでしょう。
「1人ひとりの意識改革」、「社会環境と社会制度の変革」、「産業界の変革」と大きく3つの課題を挙げました。それぞれが複雑に関連していて、解決には産官学の連携と強いリーダーシップが求められます。つまり、オールジャパンとしての取り組みを一層強化する必要があります。
経営者の視座から人生100年時代の課題への対応
ここからは私の経営者としての視座に触れさせていただきます。先に指摘した人生100年時代の課題解決の一助になれば幸いです。
それは5つあります。1つ目は、「世界の中の」という視座です。「世界の中の日本」「世界の技術と日本の技術」など、常に世界との関わりを視野に入れておくことです。世界の先頭を走り、世界からベンチマークされる日本の超高齢社会問題についても、その視座が必要でしょう。
2つ目は、社会のお役に立つ、お客様に喜んでいただく商品、サービスを徹底的に考え、開発することです。
車でいえば、開発の軸は「環境、エネルギー、安心、安全、快適」です。これらにおけるマイナス要素を最小限にし、プラス要素を最大限にするということです。
高齢社会のメリット、高齢社会のデメリットは何か、それを最大限、最小限にしなければなりません。
3つ目は、人材育成です。事業の継承、発展のために必要なことは、人材育成、後継者の育成です。「モノづくりは人づくり」「教え教えられる組織」という言葉があります。モノは人がつくる、よいアイディアも人から生まれます。先輩は後輩に寄り添って現場で徹底的に教え込み、謙虚に後輩の発言に耳を傾けるということです。知識、技術を伝承することが大切なのです。すべては人づくりからで、医療の現場でもそうでしょう。
4つ目は、人生100年時代における仕事の環境づくりです。「明るく、楽しく、元気よく」が私の信条です。「明るく」はプラス思考ということです。プラス思考は絶対的に明るく、マイナス思考では暗くなります。「楽しく」は主体性を持つということです。人に言われてやるのはあまり楽しくありません。人から言われたことでも、それがいいと同感・共感して自分のものとして行えば、主体性があって楽しくなります。「元気よく」は、「いいと思ったらすぐにやる」ということです。それが元気のよさだと思います。「明るく、楽しく、元気よく」は、あらゆる活動に通じるでしょう。
5つ目は「全体最適」と「部分最適」です。部分最適を積み重ねていっても、必ずしも全体最適にはなるとは限りません。部分最適が全体最適だと思い込んでいる人に全体最適を言ってもなかなかわかりません。リーダーはどこにウェイトをかけるべきか、全体最適の視点を常に持ち、組織を変革する必要があります。それには、高い見識とリーダーシップが求められます。高齢者の問題は、医療、看護、介護、経済、さらに心の問題など多岐にわたっています。さらに社会制度の問題も含めて、全体として最適化する発想が重要です。
高齢社会のあるべき姿を追い求め産官学民一体で取り組む
日本は少子高齢化の典型的な先進国であり、その対応は世界のベンチマークとなりえます。産官学の連携と言いましたが、まずは産産、官官、学学です。その上で、産官学一体となってこの問題に取り組まねばなりません。
今の情報通信技術やロボティクス、AIなどを駆使すれば、社会も産業も変わり、働き方も変わっていきます。それを支えるアカデミアの「学」がさらに深化した研究を進めていただきたい。それを実現できるように、「官」には「学」や「産」を引っ張っていく役割があり、さらに「民」が加わって、やがて国策となります。産官学民の一体的な連携が大事になるのです。
そして大切なのは、これからの超高齢社会のあるべき姿に向けて、リーダーは「夢を語り」、「全体最適」の視点で、皆と「明るく楽しく元気よく」課題に取り組んでいくことでしょう。
筆者
筆者_渡辺会長
渡辺 捷昭(わたなべ かつあき)
公益財団法人長寿科学振興財団会長
略歴
慶應義塾大学経済学部卒業後、1964年:トヨタ自動車工業株式会社(現トヨタ自動車)入社。1992年:取締役、1997年:常務、1999年:専務、2001年:副社長を経て、2005年:社長、2009年:副会長、2011年:相談役、2015年から顧問を務めた。2009年から日本経済団体連合会副会長を務め、2012年から首都高速株式会社取締役会長を務めた。2010年より現職。2009年:藍綬褒章受章、2018年:旭日大綬章受章
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